棋書レビューのカテゴリに入れましたが、映画です。

4月1日からレンタル解禁ということで、TUTAYAでレンタルしてきて、観ました。
面白かったです。高評価です。
冒頭で関西将棋会館が映りますが、自分の知っているところが映画で出てくるって、とてもうれしいものですね(^^;

ただ、私のように小説版を読んでいたり、将棋界を知っていたりするために起こる違和感もあります。
例えば実在の棋士がちょい役で出演してますが、「これは実在の棋士が違う人物役で出てるんだな」と、頭の中で整理しないといけません。「この名前は実在の人物をどう文字ってるのか」とか、「今戦ってるこれはタイトル戦?棋戦はいったい何?」とか。

でも観ていて2時間がすぐ過ぎました。優れた映画の証です。
原作者の大崎さんをあらためて尊敬しますね。

村山聖が羽生と話すシーンがありました。「なぜ将棋をするのか」という問いです。
私は、そりゃ、村山や羽生が将棋を選んだというより、将棋が村山や羽生を選んでくれたのだと思います。
世界にたった10人しかいないA級棋士と、たった1人の七冠王。その才能があれば、将棋をやるしかないでしょう。

「今更、昔の話を観てもどうかな~」との思いがありましたが、いやいやどうして、面白かったです。おススメです。
人工知能の核心 羽生善治・NHKスペシャル取材班 著 
780円+税 2017年3月10日 第1刷発行
評価 C コンセプト<羽生3冠が人工知能について解説してくれる>

棋書レビューです。
本の内容は、羽生さんが池上彰さんのごとく人工知能について解説してくれています。
本についている帯に、「人間にしかできないことは何か」 「羽生善治が、人工知能に向き合った!」とでっかく書いてあります。

タイトルが「人工知能の核心」だし、帯がそういうことを書いているから、私は「羽生さんが、やっと将棋ソフトと戦うことを決心したのか!?」と思ってしまいました。
しかし本文に、そんな記述は見当たりませんでした。
羽生さんの解説で「人工知能のこういう技術は、例えば、将棋ソフトにはこういう具合で使われている」という記述が多くでてきます。
だけど、なんで羽生さんは将棋ソフトと対戦してくれないのか。せっかく人工知能の話をしていても、説得力に欠けます。

「プロ棋士が人工知能に向き合った」と言うなら、どう考えても対戦は避けられないでしょう。
それを避けているから、どうにも恰好がつかないんです。
この本を読んで、正直、がっかりしました。
「羽生さんという人間にしかできないこと」、それは人類代表として人工知能と将棋を指すことではないでしょうか。
なんで羽生さんは人工知能の評論家になってしまったのか。将棋を通じて人工知能と対決するプレイヤーではないのか。

いつまでも羽生さんがタイトルホルダーで第一人者とは限りません。10年後、20年後を振り返ったとき、「羽生さんは結局、対戦しなかったな」と言われるより、「羽生さんはボロ負けしたけど逃げなかったね」と言われるほうが大事だと、私は思います。
チェスのカスパロフも逃げなかったから、今、尊敬されています。

将棋の最善の一手に今や一番近い存在である人工知能と、プロ棋士がどう関わっていくのか、それに私は注目しています。
この本の内容というよりは羽生さんの話になってしまいましたが、それもまた将棋ファンの一つの感想です(^^;
棋士の一分 将棋界が変わるには
橋本崇載著 角川新書 800円+税  2016年12月10日初版
評価 B 
コンセプト<ソフトとの関わり合いと中心に、プロ棋界が抱える様々な問題を提議>

棋書レビューです。ハッシーがプロ棋界の現状を憂えていることを書いた本。
「まえがき」に、「憧れの職業から食えない職業、どころか蔑(さげす)みの対象にさえなりつつある」と書かれております。
私はこれには、笑ってしまいましたが(^^; ハッシーは正直でいいですね。

この本、私は序盤はメモしながら読んでいたんですけど、中終盤、なんだかメモを取るのがめんどくさくなって、取るのをやめました。
それというのも、ハッシーがどういう対象に向けて書いたのか、それがよくわからないんです。
この本は、ファン向けというより、むしろプロ棋士向けという感じを受けました。
連盟を改革しなきゃいかん、という話が、後半ずーっと続いているので、私は「そんなことを私に言われても、どうしようもない」と感じてしまいました。
なにかビジネスをしていて、組織を改革したい人向けの内容・・・とも言えるんですけどね。

ハッシーの活動でいうと、あのタッグマッチを中止に追い込んだのは、本当に大手柄でした。そのことについても、書いてあります。
もし連盟がタッグマッチを本格開催していたら、私はもうプロを見限ったでしょうから。

ただ、それ以外で具体的にハッシーが何か連盟を改革したという話はありません。
理事選に出たけど、落選してもう今後は出馬しないと書いてありますし。

将棋ソフトとの関係についてですが、ハッシーは「関わるな」というスタンスです。
でも、それは無理です。多くのアマチュアがもうガンガン活用してますから。
色んなプロ棋士がもう研究にバンバン取り入れてますから。
それで「プロとソフトは勝負は全くしない」って、それは不自然すぎるんですよね。

この本のタイトルにある「棋士の一分」という言葉。
「一分(いちぶん)」とは、面目、名誉のことです。
これは「武士の一分」という映画から来ているんですよね。
私は映画を観ました。主人公のキムタクがとてもかっこよかったです。それはなぜか? 主人公の妻を手籠めにした敵と決闘したからでしょう。
あれを、決闘せずに避けていたら、もう全然話になりません。
ハッシーは「ソフトと戦うな」、と言っている。でも今回の本のタイトルは「棋士の一分」。おかしいですね。
敵であるソフトと戦って見せてくれと言いたいです。

でもこういう本を書けるだけの知識や文章力があることは、素直に尊敬します。
ハッシーは10年後には将棋界に見切りをつけて、異業種で活躍していそうですね。ハッシーならそれができそうだと思いました。
将棋「名勝負」伝説
別冊宝島 1200円+税 2016年10月21日発売 分量は約130ページ 
評価 A  コンセプト<将棋界の話題を、記者が好きなようにピックアップして記事にしたもの>

棋書レビューです
この本はムック形式というやつで、雑誌と書籍の中間ですね
宝島社のお家芸と言えるスタイルです
この本、読んでおいて損なしです、面白かったです
テーマがバラバラなんですけど、取材した記者が、それぞれ自分の知りたいこと、書きたいことを書いている感じで、それが成功しています

全13個ほどの記事の中で、私が気に入った、面白かったものが5つ
・渡辺竜王へのインタビュー
・バッグギャモンの「ソフトと人間の共存」の話
・「不屈の棋士」の著者の大川さんが書いた「ソフトが与える将棋界への影響」
・「オール・イン」の編集者による天野貴元さんの思い出話
・千田五段へのインタビュー

「ソフトの襲来によってプロ棋士・将棋界はどこへ向かうか」というテーマで渡辺竜王も大川さんも突っ込んだことをしゃべってくれてます 「危機感」が伝わってきますよ  
三浦の疑惑騒動は、話が新しすぎて出てきませんが、不正防止の話があります

そして、なにより突出して面白いのが、大川さんが、千田五段にインタビューしてるんですが、これがすごい内容(笑)
もう、笑えるというか、あきれるというか、尊敬するというか・・・
千田のソフトへの情熱はどこまで行くねん! そこまで言う?   
これ、「不屈の棋士」を読んで面白いと思った人は、千田へのインタビュー記事はぜひとも読むべき内容となっています
「不屈の棋士」の続編というべき内容ですからね 
この千田の記事はたっぷり14ページ分(内2枚は写真ページ)も分量ありますしね

唯一気になるのが、本のタイトルですね  
いったい何が「名勝負」で伝説なのか、よくわかりませんが、どうでもいいでしょう
この本、図面が少ないんで「観る将」に、おススメです 
そして特にソフトの話に興味ある人にも、です

上記以外の他の記事もまずまずですし、何より千田はやってくれたなー(笑)
連盟発行の「将棋世界」だと、ここまでは書けないんじゃないか、と思う内容が読めて満足です
お弁当に例えると、この本は色んなおかずが詰まった、幕の内弁当みたいなもんです
美味しかったです、高評価! 宝島社さん、記者のみなさん、Good Job! 
2016.07.23 不屈の棋士
不屈の棋士 大川慎太郎著 講談社現代新書 840円+税 2016年7月20日初版発行
評価 S  コンセプト<プロ棋士たち11人へ将棋ソフトに関するインタビュー>

ひさしぶりの棋書レビューです
私は今まで、この「ソフトの件」については、イライラしていました
その原因が、「プロ棋士がソフトに関して、あまりしゃべらない」ということに起因していたのだということがこの本を読んでわかりました
本書、かなり突っ込んでインタビューをしてくれています
例えば羽生さんへの質問を一部抜粋してみます

大川「第1期叡王戦にエントリーしなかった理由を教えてください」
大川「羽生さんがいま、もしソフトと戦うとしたら、アンチコンピュータ戦略というか、たくさん対戦して弱点を見つける、というような準備になるのでしょうか」
大川「将棋指しは『強い相手と戦いたい』という欲求をお持ちだと想像しますが、大舞台でソフトと指してみたいという思いはあるのでしょうか?」
大川「『いまいちばん強いソフトと対局したら勝つ自信はありますか?』という質問にはどう答えますか?」

・・・まだまだどんどん延々続く質問の嵐(笑)  こういう刺激的なインタビューとその回答が、延々318ページ
つまらないわけがないです  
ただ、延々ソフトに関する質問集なので、私は「またソフトの話題か!」と、途中で思ってしまいましたけど(笑)  それは、そういうテーマの本ですから(笑)  ちょっとずつ読むのがいいんでしょうかね  

千田さんがやっぱり面白い存在で、研究にソフトを取り入れまくっています
そしてその対極の存在として、ソフトに背を向ける行方さんのような人もいる
私は行方さんに共感してしまいます
千田さんは棋力向上と言ってますが、完全にソフトに依存する勉強の仕方で、100%ソフトの指示どおり指せるようになったとして、じゃあ人間の存在意義って、どこにあるのか? それはもう人間というよりソフトそのものではないか、そう思ってしまいますね

「プロ棋士の存在価値はこれからどうなるのか」、「ファンが離れていくのではないか」という過激な質問もバンバンしてくれていて、プロ棋士もそれに対して何らかの答えをしてくれています
「電王戦の貸し出しルール」に賛成か反対か、そして「評価値」が視聴者向けに出ることにどう思うかも質問してくれていますね

普段のプロの研究において、私が思っていたより、もうプロ棋界にはソフトが浸透していることがわかり、私はショックで、「あー、もうプロの将棋は割り引いてしか楽しめなくなっちゃったな」という思いが沸きましたが、しょうがありません

とにもかくにも、丸々本一冊分、こういう機会を設けてくれたことにより、私の「イライラ」はかなり解消されました
貴重な証言集に仕上がりましたね
大川さん、そして答えてくれたプロ棋士のみなさん、ありがとう

私のような一ファンが、これからもプロ棋士の将棋を観続けるのか、それは自分で決めていかないといけません
私はまだ葛藤の日々を送ると思います・・・(^^;
青野照市の基本の詰将棋5手 (将棋パワーアップシリーズ)
青野照市著 創元社 1000円+税 難易度★★★  2015年12月10日第1刷発行
評価 A
コンセプト<そこそこの難易度の詰将棋202題>

レイアウトは、創元社のいつもの2問2答形式のパターンです 
持ち駒の表示がちょっと小さいと感じる以外は、問題ありません
裏透けもなく、いい感じです
ヒントがいっさいないのも、私の好みです
12問、わからなくて答えを見ました 
まあ、もっと考えれば答えがわかったかもしれないのですけど、もう我慢できなくて見てしまうことがあるんですよね・・・
難易度は、5手詰ハンドブック(赤)と同じくらい、と感じました
(赤は一番最初に出た5手詰ハンドブックです)
難易度が最初から最後まで変わらないので、安心して解くことができます
解説は詳しいと言えば詳しいんですけど、まだ説明が足りないかなと思う問題もありました
分岐がけっこう多い問題がありましたからね・・・ でも、これ以上はスペースの都合上、解説は増やせないし・・・

私は詰将棋がとりわけ苦手なんで、もうヒーヒーとなりながら解きました
3日がかりで、もしかしたら10時間くらいかかっちゃってるかも?
数題、解けるたびに休憩とかになっちゃってるから、もう何時間かかったかわかりませんわ(笑)

肝心の、問題のセンスはどうか? これはまずまず及第点と思います
以前レビューした「加藤一二三の5手詰め」の問題のように、「一題に使っている駒が17枚とかって多すぎる」とか、「意味のない駒が配置してある」ということがありません 
解後感も、詰め上げたときは「おっ、やった」という問題が多いです

さて、この本の悪いところは何か? それはタイトルに「基本の詰将棋」と題してあるところです
基本って何でしょう? 頭金とか腹金でしょうか? そんなレベルを期待した人にとっては、もうめっちゃ難しい本ですよ、これは・・・
この本は、作品性を重視しています
詰将棋の作品にとって、「基本」なんて、無きに等しいものでしょう
「基本」をわざと超えて「あっ、そうか、もしかして、その手があるか」と思わせる解き方だから、「作品」として仕上がっているわけで・・・

本当の基本の詰まし方を書いた本もあるでしょうに、こんな作品性を重視した本に「基本」と書かれていては、まぎらわしい、迷惑な話だと思いますね
初心者さんたちが、遠ざかってしまうと思います

まあそれはそれとして、内容は良いと感じましたので、A評価にしています
B評価にするかどうか、そうとう迷いましたけど、問題の質は一定レベルにあり、私にちょうど良かったですからね
2題、例として載せておきます 
コピペしてKifu for Windowsに張り付けて見て下さい

第50問↓

後手の持駒:飛二 角 金三 銀三 桂二 香三 歩十四 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v玉 ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ とv歩 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v銀|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手の持駒:角 金 桂 

-----------------------------------------------------------------------------------------------
第90問↓

後手の持駒:飛 角 金四 銀三 桂四 香四 歩十六 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・v玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| 角 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手の持駒:飛 銀 
手数=0 まで
才能とは続けられること 強さの原点
羽生善治著、というかインタビューの書き起こし
2012年2月初版だが、実は2008年10月のTV放送から取り上げたもの 
PHP社 定価 1100円(税別)  評価 A 

また古い本のレビューです
この本、私は図書館で借りました 将棋本のコーナーに置いてあったのです
文字は大きいし、120ページ強で終わるし、中身の少ない本かな?と思いましたが、そうではありませんでした
でも買うほどではないしで、結論として、図書館で借りるにピッタリの本でした(^^;

印象に残った羽生さんの発言を抜き出しておきます
P33より 「人間には二通りの考えがあると思うのです。不利な状況を喜べる人間と、喜べない人間。(中略)たとえ不利な局面でも、あまり落ち込まずに淡々と指していく。ここが勝負のツボを見出すポイント」

そりゃ、それができれば将棋では圧倒的に有利になりますねえ 羽生さんは不利を喜べる第一人者、さすがです

P44 「対局前には必ず頭を休ませます。人によっては、将棋の研究をして将棋漬けになっている人もいますが、私は頭の中を空っぽにし、ボーッとできる空白の時間をつくるように心がけています。」

これは私も、休ませる派です 
単に体力の問題も大きいですが、アマの大会の対局直前は将棋の駒すら見ないようにしていました
一度、「5手詰ハンドブック」を解いた直後に対局して、戦ってる最中にバテてしまったので(笑)

P52 「常に手堅くやり続けるのは、長い目で見たら一番駄目なやり方だと、私は思っています。将棋はどんどん変化していきますから、勝率の高いやり方をずっと続けていると、もたなくなるのです。目の前の勝利は、とても大事なことではあるけれど、私はあえてリスクをとる。」

だから羽生さんの将棋は元気があって面白いんですね
でも、もっと振り飛車を採用するというリスクはとってくれないんでしょうか(^^;
羽生さんが振れば、私を含め、もっとアマチュアは喜ぶと思います 

P75 「なんでも合理的に割り切って無駄を省き、徹底してやるやり方が必ずしも一番いい方法ではない、と私は思っています。」

これは、渡辺竜王の「高い勝率のやり方を採用」、「指し手は合理的に」という発想と、完璧に反しますね
羽生vs渡辺の対決は、これからも興味深いです

コンピュータと人間について
P121 「私の予想では、今は考える方向性はまったく違うけれど、最終的に選ぶ一手、決断は同じになるのではないかと思っています。」

この羽生さんの予想は、はずれそうです・・・ 
これまでの電王戦で、散々、コンピュータはプロ棋士の想像できない手を指して、プロ棋士を破ってきましたからね
(GPSの△8四銀、習甦の古い囲い方、ponanzaの屋敷戦の△1六香と△7九銀、村山戦の▲7七歩から飛車交換拒否)

P121 「私としてはコンピュータがどんな手を指すのかに非常に興味があり、機会があれば対戦してみたい気持ちはあります。そのときは勝ち負けではなく、面白く、楽しい将棋を指したいと思います。」

うわ、羽生さんはこんなことを言っていたのか、でも2008年時点での話ですけど・・・

この本は、多くの漢字にふり仮名をつけてあって、それはいいと思うのですが、ふり仮名がついてない漢字も半分くらいあります
それが残念といえば残念ですね もう全部につければいいと思いました

羽生さんがしゃべりたいことをしゃべった、中身のある本だと思いました 
でも今から買うなら中古で充分と思います
人間に勝つコンピュータ将棋の作り方
あから2010を生み出したアイデアと工夫の軌跡
監修・コンピュータ将棋協会 著者・瀧澤武信ら12人  定価 2030円(Amazon)
2012年11月初版  評価 A  コンセプト<主要ソフト関係者の解説を集めた書>

もうすでに3年以上前に発売された本、今頃レビューすることになってしまいました
専門書かと思っていたので、スルーしていましたが、図書館で見かけたので読むと、理系の知識がなくても読める箇所が多いです
とてもよくできた本で、評価Sでもいいのですが、専門用語が出てきて私には難しいところも多かったので、Aにしてあります

ソフトの開発者、Bonanzaの保木さんやYSSの山下さんらが自らのソフトについて語っています

激指の鶴岡さんの一言が印象深いので、抜き出しておきます
「強くなりすぎた将棋ソフトが引き起こす問題を耳にすることも増えてきた。もはや将棋ソフトが強くなることを誰もが喜んでくれた時代ではない。開発者としては、コンピュータ将棋に負の面があることを認めた上で、将棋ソフトがもたらすプラスの面を充実させていくことを目指すよりないのだが、悩ましい時代になったものである。」

本当にそうですねえ、まあでも私は、新作の強くなった激指が発売されたら、買いますけどね・・・
強いものを入手して、持っていたいという所有欲が働きますからね

ソフト同士が戦うネット上のFloodgateのことが書かれてあります
それぞれのソフトの棋風も書いてあるので、楽しめます

コンピュータ将棋の弱点を探る、という章も、面白いです
元奨励会三段の、古作登さんが書いています
「相矢倉で、人間側が右銀を動かさずに組んで、コンピュータが玉を矢倉に入城したところを見計らって棒銀に出るとうまくいく」
とか、「コンピュータが穴熊なら、相穴熊ではなく銀冠に」とかが書かれています
でも、これって、むなしい作業だなー、としか私には思えません
これらの弱点が発覚しているというのは、2012年の話であって、もう2016年になった今となっては、過去の参考文献でしかないですからね (古作さんはよく研究したと思いますよ)
山崎八段は今頃、こんな作業に追われているのかと思うと、げんなりしますね・・・
コンピュータ将棋の弱点を探る作業なんて、物好きなアマチュアにまかせておけばいいと思います

エピローグの、松原仁さん(はこだて未来大学)の言葉を抜き出しておきましょう
「少し前までは、コンピュータ将棋が世界チャンピオンである名人に勝つXデイはいつ来るかが話題になっていたが、筆者にとってもはや興味がなくなってしまった。いまでもコンピュータ側がちょっと頑張れば(並列化などを普通にやれば)、名人相手に4回戦えば1回以上は勝てる。コンピュータ側が最善を尽くせば数年のうちに勝ち越すことができる。名人がコンピュータ対策をすればXデイは1~2年先に延びるかもしれないが、いずれにしろ時間の問題である。実際のXデイがいつになるかはコンピュータ将棋の強さではなくいつ対戦が実現するかで決まる。」

すでに3年前に、ここまで書かれちゃってますねえ 
もう、名人がコンピュータに抜かれるのはどうしようもないですね・・・
私も名人とコンピュータ、どっちが強いかには興味がほぼないですが、今後に連盟や羽生名人がどのような動きを見せていくのか、何が起きて何が起きないのかに興味がありますね
将棋の渡辺くん 1
伊奈めぐみ著 講談社 2015年12月9日初版発行 別冊少年マガジンの連載をまとめたもの
評価 A  コンセプト<渡辺家の日常を、奥さん自身が描いたエッセイマンガ>

私は、渡辺明プロのことをかなり知っている
・・・と思ってました、この本を読むまでは(^^;

私の知っている渡辺明プロは、それはそれは頼もしい将棋を指して、解説ではキビキビしゃべってくれますからね
本書では、仕事中とは裏腹な、家での渡辺明プロの様子が主に描かれています
家での「渡辺くん」は、欠点がかなり多い人に描かれているので、楽しい(笑)
 
渡辺プロがドカンと稼いで、4つ年上の奥さんが旦那をリードしてあげてる
いやー、相性ピッタリの理想のカップルですねえ!

渡辺プロは、やらないと決めたことはトコトンやらないんでしょうが、やらなければならないことは、実直にしっかりと、できるまでやることを、私はよく知っています
それは観ている将棋ファンなら、みんな気づいてるんじゃないかな 
だからこの本でどういう扱いを受けても(笑) 、将棋ファンは安心して読めますね

昨今は、プロ棋界はコンピュータの侵略をモロに受けて、「いったいプロ棋界はどうなるんだ」という空気が私のような観る将棋ファンには漂っています
今日も24では電王ponanzaが勝ち続けているのでしょう

そんな中、無条件に笑わせてくれる本書の存在は、貴重! 
著者の絵は独自路線を行き、文房具1個を描かせても、どこか味がある!
話のネタも、日常の小さなことに目をつける、その着眼点が光っています、楽しいです
著者の絵と文章のセンスで、他にライバルがいない、他に類書がない本になっている、素晴らしいです

このレビューを書くために一気に読んだのがもったいなかったくらいです
来年の夏ごろに出る予定という、続編の2巻も、早く買いたいですね
長考力 1000手先を読む技術
佐藤康光著 780円+税 幻冬舎新書 2015年11月30日初版発行
評価 B  コンセプト<康光流の将棋の考え方>

冒頭、この文で始まります
「棋士の特殊能力ともいうべき、深く、正確に『読み切る力』を、人生やビジネスで活かすことができるのか。どうすれば論理的に物事を考えられるのか。そういった期待を持ってこの本を手に取られた方も多いかと思う。」 (まえがきより)

しかし、この本は、どうも読むほどに、将棋を指すときの精神論になっています
将棋好きなファンで、ある程度プロ棋界に精通していないと、面白くないんじゃないかなあ、と思えますね

全6章から成りますが、序盤、退屈なところがあります 
「定跡」、「大局観」、「利かし」、「スペシャリストとジェネラリスト」といった言葉の定義は、別に康光にわざわざ教えてもらわなくとも、もう私は知っていますからね・・・
こういう言葉を知らない人向けなんでしょうけど、本の後半では一転して、森内とか郷田とか森下とか島とか室岡とかが出てきて、「どう考えても、今度はマニア向けの話だよな」と思えます

後半が面白かったです 康光本人による「康光新手」の解説とか、新手を作るときの苦労、このままの変則な棋風でいいのかという葛藤、私は興味深く読ませてもらいました
でも、矢倉の組み方の進化とかを図面で教えられても、将棋に興味ない人が読んだ場合、何を思うんでしょうね(^^;
(図面は全部で10個程度しか出てこないですけどね)

タイトルの「長考」に関しては、もっと深く取り上げて欲しかったです
「好きだから読み続けられる」という項目がありますが、結局まあ、そうなんだろうなあと感じました
康光といえば、今年の将棋年鑑のアンケート、「一生お金に困らないとしたら?」に、「将棋の研究」と答えていますから、もう将棋のことを考えるのは本能というレベルなのでしょう

ただ、「長考の中身」について、あまり触れられてません 「何をそんなに考えてるのか」がいまひとつ書かれてませんでした
堂々巡りはないのか?、と思ってしまいますね

あと、なぜ康光が居飛車本格派から、破天荒な棋風に変わったのか、それが書いてあるのはいいですね
原因は、あの人との戦いで12連敗を喫したから、だったんですね(笑)  

電王戦、叡王戦については、分量7ページで、ちょっと触れられているだけです
叡王戦について、「私も参加する以上、コンピュータと戦うときは全力を尽くすしかない。」と書かれてあるだけです
康光といえば、米長著の「われ敗れたり」で、コンピュータとの対戦をきっぱり断った話が有名ですが、なぜ今回は叡王戦に出たのか、私はいまだに不思議に思っております・・・

強いコンピュータが出てくる中、出された康光さんの「長考力」というタイトルの著書
康光は巻末で、「人間にしかできない将棋とは何か。その答えは持ち合わせていないが、深い読みに支えられた『読みだけではない驚き』を与えることにあるのではないだろうか。」と述べています
康光は観る人に驚きを与えてくれるよう、これからも、がんばってくれるようです 
創造派の第一人者は、これからどんな将棋を見せてくれるんでしょうかね 期待しております
瀬川晶司はなぜプロ棋士になれたのか
古田 靖著 河出書房新社 1500円+税 2006年3月初版
評価 S コンセプト<瀬川さんのプロ編入問題の裏事情のドキュメント>

また古い本の話題です(^^;
私は先日「泣き虫しょったんの奇跡」を遅まきながら読んで、この「瀬川晶司はなぜプロ棋士になれたのか」も読んでおこうと思いました
著者の古田さんは、時事問題を幅広く執筆されているそうです
この本、よく取材されてあるなー、どこでこんなに情報を得たのだろうかと感心させられます
関係者たちの間で、瀬川さんの編入を応援する側vs反対する側という、白熱バトルになっていく様は、実に面白いです! 
「プロジェクトS」と名付けられた瀬川さん編入の一件ですけど、本家の「プロジェクトX」も後ずさる面白さとなっています


さて、今回私が取り上げたのは、ほかでもない、今年4月に白紙撤回になった、あのタッグマッチ問題について、瀬川さん編入問題との共通項を見つけたからです
なぜ、タッグマッチの巨大棋戦化にプロ棋士たちは飛びついてしまったのか?
その一つの答えが、この本には書かれてあると思いました
以下、本文から抜き出します

「連盟がこのまま赤字を垂れ流せば、近い将来、経営が行き詰まることは明らかだった。年間の赤字は平成16年で1億3000万円。余剰金は3億円余りしかない。つまり、3年後には、棋士や職員の退職功労金や会館維持の特別会計を取り崩さなければ運営できなくなる。その未来を変えるために理事たちは奮闘しているのに、周囲からは全く理解されていなかった。
『(米長)会長が暴走している』 『一過性の話題作りはよくない』 『興行的だ』」


そんな批判に対し、当時の森下新理事はこう言い返します
「『今の連盟にはお金がないんです。話題性を高めるようなことをして何がいけないんですか。プロ試験は連盟のためにやるんですよ。紀伊國屋さんを使わせてもらうのは、費用の問題もあるんです。連盟が赤字にならないイベントにするにはこれしかないんですよ』」

・・・これ、そのままタッグマッチに当てはめることができませんか?
去年までの連盟の本音「今の連盟にはお金がないんです。話題性を高めるようなことをして何がいけないんですか。タッグマッチは連盟のためにやるんですよ。ドワンゴさんを使わせてもらうのは、費用の問題もあるんです。連盟が赤字にならないイベントにするにはこれしかないんですよ」

あまりにもピッタリくるんで、私は笑えてしまいました・・・
タッグマッチの巨大棋戦化をやろうとしたのは、結局、こういう事情でしょう? 
でも、どういう事情があろうと、プロ棋士が、ソフト指しでお金を稼ごうなんて、ダメですからね?
つい先日も、週刊将棋の休刊が発表になったばかり、谷川会長らは大変でしょうが、がんばってほしいです
タニー、理事の方々、そしてプロ棋士たち、しっかりね!!
加藤一二三の5手詰め パワーアップシリーズ
加藤一二三著 創元社 1000円+税 2015年11月初版 
評価 B  難易度 ★★☆ (10段階で5です、ちなみに5手詰ハンドブックで★★★)
コンセプト<平凡な詰将棋集>
2問2答形式 裏透けなし レイアウトまずまず

超ひさびさな、読み物以外の棋書レビューです
普通な5手詰が202題、以上、レビュー終わり

・・・さすがにそれだけじゃ寂しいので(笑)  
レイアウトは、創元社の十八番のタイプです 高橋九段の○手詰将棋シリーズと同じです
このレイアウトはなかなかいいのですが、持ち駒の表示がやや小さいと思います
解答ページの解説は、かなり詳しいです それはグッドです

難易度は、5手詰ハンドブックよりちょっと低いかなー、でもだいたい同じだろうという程度です
一冊を通して、最初から最後まで難易度は変わりません 後半になっても簡単な問題が多く出てきます
Amazonの紹介文で、「詰みの基本ともいうべき5手詰めで、ネット世代の若い将棋ファンにとくにオススメ」と書いてあったので、ぐっと易しい問題集かな?と思ったら、そんなこともなかったです

この本は、とにかく、平凡、ふつう、この一言に尽きます
特徴というべきものが見当たらないです
いちおう、実戦形の部類に入るんでしょうね

一二三先生、問題を作成するにあたって、使用する駒の枚数を制限しておらず、一番多いものでは17枚(持ち駒含む)も使っていました 多いです・・・
シンプルなものも、もちろん多いんですけどね
それと、なんの役割も果たしていない、解くのに関係ない駒が配置されていることがあります 
刺身の上に乗っているタンポポみたいな駒がときどきありますね

一二三先生の作品ということで、どこかに「ひふみんらしさ」があるのか、と思ったけど、別に見当たりません
作品からそれは感じることはできませんでした 
もう私が実戦形の5手詰に慣れてしまったためもあると思います 
私にはちょっと簡単すぎたか 平均1問2分弱ぐらいで、5~6時間くらいかかって解いたと思います

ひふみんの言葉は1ページだけです
一二三先生は今までどんな詰将棋を解いて修行してきたのか、個人的に興味あるんですけど、書いてなかったです
作るほうは「私は、詰将棋問題を長年にわたって作ってきました」と書いてありますけどね

なお、この本を解いたあとに、浦野八段の5手詰ハンドブックを見たら、浦野本は、解きたいと思わせる問題ばかりだなー、と思いました・・・ 駒を配置するセンスの違いなんでしょうね 浦野先生のセンスの良さが改めてわかることとなり、浦野先生は詰将棋作家としてやはり偉大という結論が出ました (内藤先生もいいですね)

ごく普通で、おススメじゃないですけど、悪くもない、まあこんなものでしょう、以上です

第1問と第2問を、載せておきます (青く反転させてコピーしてkifu for windowsに編集→貼り付けで見てください)

後手の持駒:飛 角二 金二 銀四 桂二 香三 歩十二 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ 飛v金v玉 ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・ 歩 桂|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手の持駒:金

---------------------------------------------------------------------------------------------------


後手の持駒:飛二 金三 銀三 香二 歩十四 
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ 馬v歩v香v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・v桂v玉 ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・v桂 ・v桂 ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩vと ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手の持駒:角 金 銀 
泣き虫しょったんの奇跡 完全版 サラリーマンからプロ棋士へ
瀬川晶司著 講談社文庫 640円+税 2010年2月第1刷発行
評価 S  コンセプト<瀬川さんのプロ編入試験を受けるに至った半生の回想>

2006年に出た「泣き虫しょったんの奇跡」に、巻末に一つの章(プロ入りしてからの話)を加えた完全版で、2010年に出された文庫本です
私は瀬川さん関連の本について、どういうわけか全く興味がなく、読んでいませんでした

10年前の瀬川さんのプロ編入試験のとき、なんで私は全く興味を持たなかったのか、けっこう謎です
どうでもいいや、と思って完全にスルーしてました(笑) 
私は瀬川さんの活躍したころの銀河戦も観てなかったですね

私はここのところ、天野貴元さんの「オール・イン」、そして今泉健司さんの「介護士からプロ棋士へ」を読み、この瀬川本も読んでおこう、と今頃になって思ったわけです 今頃この本のレビューです、すいません(^^;

そしたら、この「泣き虫~」、もう素晴らしく面白いじゃないですか それも最高と思えるぐらいに面白い
瀬川さん、なんでこんなに色々と昔のことを正確に覚えているのか? 小さい頃のことから学生時代のこと、奨励会のこと、辞めて社会に出るまでのこと、そして編入試験のこと・・・
表現力もすごくて、風景描写、人の言動、どれも非常に読みやすくまとまっています

幼い頃、お兄さんに空気銃で狙われて、屋根まで逃げる瀬川さんのシーンが好きですね
ワニが両生類であることに1億円を賭ける、という奨励会員がいたところとかね
けっこう笑えるところもある本です

数あるエピソードの中でも、勝又三段が対局中に1分の秒読みなのにトイレに立ったところの、瀬川三段の心の描写は秀逸!
こんなの、まるでマンガじゃないですか・・・

天野本、今泉本、そしてこの瀬川本、どれもよほど手練れ(てだれ)の編集者がついたのでしょうか?
この3冊、どれも文章がうますぎる!! 3冊とも、本を初めて書いた人たちの作品とはとても思えないです 
私からしたら、この3冊は別格にすごい!

本来ならこの3冊は、すべて評価をSにすべきところなのですけど、天野本は奨励会を辞めてからのエピソードが少なかったので評価Aにしちゃいました (退会後にすぐにガンになってしまわれたので、実際あれ以上に書きようもなかったですが)
今泉本は「晩成しました」とサブタイトルに書いてしまってあったのでマイナスということで、評価Aでした
この瀬川本は、素直に評価Sです 瀬川さんが今もっと活躍してればさらに良かったとは思いますけど・・・

いやー、面白い本に出合えるっていいね  やはりノンフィクションは、最高!
介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど晩成しました
今泉健司著 講談社 1400円+税  2015年3月初版
評価 A 
コンセプト<今泉さんの奨励会時代を中心とした、プロになるまでの半生>

先月の10月27日、私は一冊の本を読み返していました
天野貴元さんの「オール・イン」です
まさか、その日が天野さんの命日となってしまったとは、なんという偶然か・・・
天野さんのご冥福をお祈りいたします

その「オール・イン」の中の奨励会の話があまりに興味深かったので、もっと奨励会について書かれた本はないか、と思いました
それで買ったのがこの今泉さんの本です

今泉さんは紆余曲折あって、やっとプロになれたわけですが、本文の中でもやはり奨励会の話、中でも三段リーグの話が1番面白いです
もう、読んでいてハラハラドキドキ、たまらない!
三段リーグについて書かれた第三章の「地獄のリーグ」を読み始めるとき、思わずドラゴンボールのベジータの言葉で「これからが本当の地獄だ・・・!」とつぶやいて読んだのは、私だけではないでしょう
結果がわかっているのにこれだけ読ませるとは、三段リーグおそるべし・・・!

今泉さんの半生、本当に面白かったです これがノンフィクション、これが実話なんだから、その面白さは、そのへんの作り物の話とは一線を画してます
ネット将棋で修行するシーンも大好きです  今泉さん、プロになれてよかったね!

ただ、この本、疑問点もあるのです それはサブタイトルです
「大器じゃないけど、晩成しました」とあります
「晩成」を辞書で調べると、「年を取ってから成功すること」とあります
もう成功者になっちゃった? まだプロに入りたてなのに?
プロとしての実績がまだほぼない状態で「人生の成功者です」と言うのは、どう考えてもおかしいのでは?
例えばこれが野球だったらどうでしょうか? プロ野球に入団した時点で「成功しました」なんて言っちゃう新人が居たら、野球ファンからバッシングを受けると思うんですけど、そこのところはどう考えてこんなサブタイトルをつけちゃったのか・・・
このサブタイトルが私には引っかかり、読む時期が今になってしまった原因です 

でも、中身の文章はすごくうまいし、よくこんな昔のことまで覚えてるな~、と感心させられました
濃い内容を読ませてもらいました、とにかく面白かった、感動しました! 

ただ、奨励会については、「オール・イン」に続き、またしても考えさせられました 
今更だけど、この奨励会を勝ち抜かないとプロになれないんだなーと思い知らされます
私にはプロを目指すような才能がなくて良かったな、思いますね
摩訶不思議な棋士の脳
先崎学著 日本将棋連盟発行 1540円+税 2015年10月初版
評価 B  コンセプト<週刊文春に書いたエッセーから70編を抽出>

先ちゃんのエッセーだ
本の帯に、「プロ棋士・先崎九段が描く痛快将棋エッセイ 面白すぎる70編を収録」と書いてある ・・・が、しかし、これが問題だった
「面白すぎる」なんて書いてはいけなかった 
読む前から、読者にそんなにハードルを上げてどうするのだ
「このご飯、美味しすぎるから、食べてみ」とか、「この映画、面白すぎるから観てみ」
と言われて、たいてい、ろくなことはないのだ 
実際、この本、そこまで面白くはないし(^^;
昔のエッセーのほうが面白かった、というのが私の間違いのない本音だ

先ちゃんの場合、本職の将棋では羽生世代と比べられ、著書は昔の頃の先ちゃんの本と比べられ、大変であろう・・・
「一葉の写真」とか、「世界は右に回る」とか、あの頃の先ちゃんの文章には、ほとばしる熱いパトス(情念)があったもんねえ
今は、まあ丸くなったよ、しょうがないね

48ページに、先ちゃんの本音が書かれているので、抜粋したい
「自分もこれから大変だな、と思う。先輩はしぶといのばかり、後輩はいきのいいのばかり、同世代はいうまでもなく強いのばかり。」
うん、そのとおりだね(^^; よくB1に昇級できたものだと思う この本では、どうにかB2で降級点を逃れるべく戦う先ちゃんが書かれてあるので、昇級での私の驚きもひとしおだ

私は毎年、NHK杯か銀河戦で先ちゃんが出場するのを待っているのだが、最近、いっこうに予選を勝ち抜いてこないので、TVの前で応援したくても、やりようがなかった (来年は先ちゃんがNHKで観れるね)

さて、もう一つ、この本には問題がある 
2007年~2012年の期間に連載されたとのことだが、各文章が具体的にいつ書かれたものなのか、明らかにしてくれていないのだ 週刊文春の何年の何月号に載りました、と書いてくれていない
これがかなり痛い! 誰と誰がタイトル戦で戦っていて~とか、B2順位戦で戦っていると~とか、囲碁の井山さんと室田女流が結婚して~とか出てくるのだが、これは、結局いつの話?となってしまうのだ
時事ネタが非常に多いのに、何年の話なのか、わからなくしてあるのは、まったくバカバカしいと言わざるを得ない

中には「今年に入ってまだ一度も外で酒を飲んでいない。」とあるが、いったい何月に書いたものか、全然わからず、意味がなくなっている箇所まである 
雑誌から抜き出してあるわけで、編集者は調べればわかるだろうから、なんで年月をしっかり書いてくれなかったのか、全く謎である まさに「魔訶不思議な編集者の脳」というところだ

色々書いたが、それなりに面白かったことは間違いない 
注釈で、今の先ちゃんの視点が書かれてあるのはGood
3話に1話ぐらいは楽しく読めた

先ちゃん、けっこう飲んでるな~、と思った タイトル戦の仕事で旅館で飲んだり、なんたらを祝う会で飲んだり、イベントの打ち上げで飲んだり、誰それの結婚式で飲んだり・・・もちろん対局に負けた後にも飲んでる(^^; 

電王戦についても、「あから2010」と「ボンクラーズ」のことがちょこっと書いてあるだけだった
電王戦で何を考えたのか、もっと知りたいが、2012年で連載が終わってるからしょうがないなあ

私が大笑いした所を書き出してみようかと思って、紙に書いたら、大笑いしたのは前半の2か所だけだったという(笑)
毎日、色んな人と出会って酒を飲んでそして将棋を指して、と、プロ棋界は平和でいいね、というエッセー本になっている
まあ、この週刊文春の連載は、わざと「平和な日常」をメインテーマにしてあったのかもしれない

そして先ちゃんは、この本のラストでこう書いている
「どうも最近、将棋界の語り部的存在になりつつある気がする。」
うん、先ちゃんはもうそれでいいよ、将棋も文章も、もう若い頃のようなあふれる才気を期待してはいけないのだろう
ほどほどに将棋が強く、ほどほどに文章が面白い存在、それが先ちゃんだ
河口老師が亡き今、あとを継いで、ファンのためにプロ棋界の語り部としての役割を全うしてほしい
この本のタイトルは「摩訶不思議な棋士の脳」だけど、本を読み終えると先ちゃんは全くの常識人に思えてくるよ いいことだ、うんうん

私は週刊文春を読んでいなかったので、こういう本はありがたい
なぜ連載終了から3年も経って? もっと早くできなかったのか、とも思う 
今は週刊現代で書いているとのことだけど、なるべく早くに単行本化して出してほしいと思う