さて、この本、疑問に思ったところもいくつかありました 今回はそれを書きます

・誰でも初段になれる
冒頭にこう書いてあります これはどうなんでしょうか? 以下、本文より抜き出してみます↓

「これから初段を目指すみなさんに、まず知ってもらいたいことがあります。
それは『初段になるために特別な才能はいらない』ということです。
もちろん、初段になるまでの期間に個人差はあるでしょう。しかし、年齢や性別によって不可能ということはありません。誰でも初段になることが可能です。」(P17)

これ、根拠は何なんでしょう
浦野七段によれば、たとえ女性でも誰でも初段になれるそうです

将棋に興味を持った女性が100人いたとして、100人とも初段になれますかね?
本書によれば、町道場初段は、24のレーティングで1200点~1300点くらいだそうです(P15)
女性が100人とも全員1200点台になるっていうのは・・・無理と思います

森信雄七段の子供教室では、森「初段になるのは、十人いたら、二~三人やなぁ。」(P204)
あのー、浦野七段、森七段はこう言ってますけど(^^; 
「誰でも初段になれる」というデータは取れてませんよね むしろ逆です・・・

私がアマチュアの立場から言って、プロ棋士の人たちに知っておいてほしいことがあるのです
それは、自分が生まれ持った才能がどれほどのものか、しっかり自覚していてほしい、ということです
将棋の競技人口を、仮に160万人として計算すると、プロ棋士は約160人ですから、割合は1万人に1人、すなわち0.01%なんです プロになれた人は、0.01%の側の立場にある人達なんです 
「プロになれた人は全員、特別な才能に恵まれている側の人」というのは、否定できない事実でしょう このことをわかっていてほしいのです そのプロが、99.99%のアマの人たちに向かって、「アマの初段にくらい、誰にでもなれる」と言うのは、それはナンセンスと思います・・・

新聞や雑誌の次の一手問題の点数累積方式での「免状初段」なら可能という意味かもしれませんが、それなら、「初段になるための勉強法」の本書を読む必要ははじめからなく、いつかは達成できてしまうものですよね


・P41 三間飛車の項 
四間飛車よりも急戦で攻められやすい ×
四間飛車よりも急戦で攻められにくい ○
ここは、明らかな誤植と思います

・P43 升田式石田流の項 後手では無理気味なので、指すなら先手が無難、と本文にはありますが、後手でも充分指せると私は思います 「教授」のあだ名を持つ勝又六段ですら、後手升田式石田流をとがめず、自重する指し方を選びましたからね
(今期NHK杯1回戦▲勝又vs△西尾) アマ初段くらいなら、充分後手でも通用するでしょう

・本の紹介で、「最新の8五飛戦法」と「渡辺明の居飛車対振り飛車Ⅱ 四間飛車編」が紹介されていますが、この2冊はレベルが高いです 代わる本がない、というのも確かなんでしょうけど・・・

「最新の8五飛戦法」は、高橋九段がA級復帰の原動力とした戦法ですが、アマ初段を目指す人に薦めているというのは、うーん、と思わざるを得ません 8五飛自体が、べらぼうに難しい戦型と私は認識していますのでね まあこれは、私が個人的に横歩取りが苦手、というのも大きいです

「渡辺~」の方は、たしかに良書で一生ものの本と思いますが、居飛車党の立場から言わせてもらうとこれも内容が高度で、「そこまで詳しく対四間飛車ばかりに関わっている時間はない」と思います アマ初段になってから読んでも遅くはないのではないでしょうか? 


・「角道を止める四間、三間、中飛車は初心、あるいは初級者以上向き」とあります(P40~P41)
これはどうでしょうか 
四間飛車が初心者向きの戦法、と浦野七段が書く理由に、本書では「駒組みが覚えやすいから」とあります
たしかに、序盤は駒組みが覚えやすく、指しやすいでしょう
しかし、将棋は序盤だけ指せればいい、というのではありませんよね 当たり前ですけど(^^;
その後の展開を考えた場合、四間飛車側から動くのは難しく、中盤以降は居飛車側の手に応じて指す、という高度な戦術が求められます 私はむしろ、四間飛車は上級者以上向けの、高度な戦法に分類されると思います

角道を止める三間、中飛車、についても同じことが言えると思います
序盤はたしかに初級者向けかもしれませんが、中盤以降のことを考えた場合、自分から主導権を握るのが難しく、やはり初級向けではない、とする方が自然なのではないでしょうか
駒組みが終わって以降、これといった指針がなくなりがちなので、実際に指すと、とまどうと思います
居飛車穴熊対策も考えねばなりませんしね

代わりに、私が初心者~初級者におススメしたいのが、ゴキゲン中飛車や升田式石田流です
序盤は少しだけ定跡を覚えなければなりませんが、それは乗り越えてもらいましょう
角交換になりやすいですが、角交換になれば、そこからもう戦いが始まった、と認識すればいいのです
角交換したあとは、自由に戦えばいいのです 
角交換型の四間飛車や向かい飛車もおススメです
将棋は、どうせどこかで戦いが起こるのですから、角交換を怖がっていては、アマ初段にはなかなか到達できないのでは、というのが私の持論です 後手番を持てば、3手目に角交換される可能性だってあるのですからね
後手番を持って▲7六歩に対して、自信を持って△3四歩、と突けないのでは、悲しいですからね

・最大の問題と思われるのが、「矢倉」が初級者以上向き、と分類されていることです(P44)
しかも、本書の図では、相矢倉が載っています(^^; 
これ、どう考えても矢倉は上級者向けの戦法、と私は思います
なぜ矢倉が上級者向けかと私が思うかと言うと、矢倉は囲いに至るまで、手数がかなりかかるのです
ということは、必然的にそこに至るまでの変化も多い、ということです 

矢倉に囲っている最中に相手に「矢倉崩し右四間」などで主導権を奪われ、攻撃されることを覚悟せねばなりません
初級者にとって、矢倉で受ける側と、右四間で崩す側、どちらが勝ちやすいかというと、圧倒的に矢倉を崩す側だと私は思います

「矢倉」の中でも「相矢倉」は、羽生をして「高い山」と言わしめる戦型なのです
その変化の多さ、手の難しさたるや、振り飛車戦法の比じゃありません 
これを「初級者以上向けの戦法」と書いてしまっているのは、明らかに過ち、と思います

「矢倉」を上級者向け、と分類すると、相居飛車で初級者以上向けの戦法がなくなるじゃないか、と思われるでしょうが、それは仕方ないと思います だって、相居飛車は実際にどれも難しいんですもん(^^;
「相居飛車は、どの戦型も指し手が難しい戦いになる」と正直に書いておけば良かったと思いますね

・P47に、角交換の戦法は初心者、初級者には不向き、とまとめられてありますが、私は逆で、角交換を怖がっているようでは上達が遅くなる、だから初心者ほど、自分の側から角道を止めないようにすべき、と思っています これは私の持論です 
 
この「初段になるための勉強法」は、全体的にとてもよくできている本と思うのです
だからこそこの本に書いてあることが、今後、金科玉条のように扱われることを私は危惧しているのです
だからあえて、こういったことを書かせていただきました