将棋名人戦血風録 ──奇人・変人・超人
加藤一二三著 角川書店 2012年5月10日初版 743円+税

なかなか面白かったです 値段分の価値は充分あると思いました
実力制名人になってからの、歴代名人12人についての、加藤先生から見た人物像が描かれています
木村、塚田、大山、升田、中原、加藤、谷川、米長、羽生、佐藤康光、丸山、森内の12人です

加藤先生は「さん」をつけて呼んでいて、「大山さんは~」「中原さんは~」といった具合で
次々エピソードが紹介されていますから、歴代名人が身近に感じられます

話が年代別に順番に並んでいますけど、冒頭に「永世名人三人の現代」(谷川、森内、羽生)と
いうメンバーの話を持ってきた構成がうまいと思います
いきなり木村義雄、塚田正夫といった昔の話をされても、今の人はあまり興味を
持てないでしょうから(^^;
現役の棋士たちよりも、大山、升田、中原といった昔の人たちにページ数が割かれていますが、
それは当然でしょう、書いているのがなにしろ72歳の加藤先生なのですからね

私も将棋マニアなので「ゴミハエ問答」や、谷川が初めて名人になったときの、
「一年間、名人を預からせていただきます」といった、知っているエピソードがかなり多かったです
しかし、加藤先生がなぜキリスト教に入信されたのか、といった知らないことも書かれてあり、
興味深かったですね 

全体を通して思ったのですが、この本を読む限り(あくまで、この本を読む限り)、
加藤先生、実はとても常識人では、ということです
歴代名人の特徴を、非常に客観的に、冷静に観察しておられます 
サブタイトルが、奇人・変人・超人ということなんですけど、それとは逆で、
歴代名人たちといえど、むしろ、みんなやはり同じ人間なんだ、と読んでいて感じました
「なぜその人がそういった行動をが取ったのか」ということが、
加藤先生の推測から、ひとつひとつ分かりやすく伝わってくるのです 
加藤先生、名解説で知られていますけど、名観戦記者でもあったのですね 
 
そして、ときどき、加藤先生ならではの「棒銀に対する深い信念と愛情」が出てきますが、
それにはやはり笑えてしまいます プロの世界で、対戦相手にバレバレの棒銀戦法を
20歳の頃から延々指し続けているなんて、加藤先生以外にできることではないでしょう
(この本には出てきませんが、先日の順位戦最終局、棒銀の天敵・三間飛車、
そのスペシャリストのコーヤンに対して、加藤先生の棒銀が炸裂しましたね すごいです)

巻末には、38冊もの参考文献が並んでいます
こんなにたくさん読んで、一冊の本を書き上げるというのは、並大抵の労力ではないですよね
加藤先生のエネルギーには脱帽するばかりです
ただ一点、やはり将棋ファン向けと思いました 将棋を知らない万人が対象、ではないと思います

あと、私がどうしても笑えてしかたなかったことは、「あとがき」に、
「羽生善治二冠に素晴らしい推薦文を書いていただいたことを、心より感謝している。」と
あるのですが、羽生さんの文章、本文中のどこを探しても見つからないのです
あるのは、帯に書いてある『加藤先生の偉大さを再認識しました』の一言だけ、
これにはさすがに笑いました  でも、この一言にすべてが集約されてますよね(笑) 
(書いてあるのがなにしろ帯なので、帯がない中古本などを読んでしまった人は、
全くわからないでしょうね) ヒフミンのファンは、絶対に帯付きをゲットしましょう!