糸谷哲郎 六段vs船江恒平 五段 NHK杯 1回戦
解説 山崎隆之 七段

今日は誰が出るんだ、おお、糸谷と船江か 好カードだ 解説には山崎、関西勢で揃えてきたか
ちなみに、糸谷は「いとだに」と濁る、山崎は「やまさき」と濁らない

糸谷は2006年四段、竜王戦2組、C1 総合成績優秀により予選免除 本戦は6回目の出場
船江は2010年四段、竜王戦5組、C1 予選で有森、稲葉、坂口に勝ち 本戦は2回目の出場

解説の山崎「関西でも屈指の活躍をしている2人の対戦
 糸谷は早指しに無類の強さを発揮する 早指しは棋士の中でも1、2番の勝率を誇る 
 ちょっと悪くなってから独特のリズム感であやしい勝負手を放つ
 船江は攻め将棋、一気に切れ味鋭く一直線に王様を寄せきってしまう爆発力がある
 糸谷の受けと船江の攻め、タイプの全然違う2人」

矢内「糸谷はNHK杯で39手で勝ったことがある
 船江は順位戦でC2を10戦全勝で1期抜けした」

事前のインタビュー
糸谷「船江とは奨励会が同期、小学生から知っている相手、センスの良い将棋という印象
 (抱負は)NHK杯は1年ぶりの出場、まずは1つ勝ちを目指したい
 同期対決で、絶対に負けられない」

船江「糸谷はとても力強い将棋、早指しを得意としている 
 (抱負は)前回出場したときは1回戦で負けてしまったので、今日はいい将棋を指して勝ち上がりたい」

先手糸谷で、角換わりになった 糸谷が▲1七香~▲1八飛と、スズメ指し模様にするという趣向に出た
私は今まで見たことがない作戦だ こんな作戦があるのか
山崎「私が糸谷を相手にやったことがある戦法 シンプルで破壊力がある、面白い作戦」

船江は居玉で対応、攻め合いの態勢を整えた 
山崎「糸谷の攻めの作戦に対し、船江も攻めを選んだ」 

糸谷が1筋から、船江は6筋からそれぞれ攻め合うという、すごい力将棋になった
攻め合った結果、糸谷が少し駒損してしまった 指し手が早くなる糸谷
山崎「糸谷の防衛本能が働いているのだろう 悪くなったら手が早い」

船江はここが決めどころ、と思ったのだろう 考慮時間をつぎ込む船江 
糸谷玉をにらむ遠見の角(△2四角)を放ち、これで船江優勢か
これで時間は▲8回vs△0回になったが、大丈夫か?

苦しそうに、ため息をつく糸谷 しかし、糸谷は土俵を割らなかった 自陣に金を投入、玉を安全にし、
さらに狙われた飛車も実にうまく逃がした 勝負が長引いてきた 

糸谷からどう攻めるか問題だったのだが、山崎いわく「意味がわからない」という歩突き(▲5四歩)から、
桂2枚を使って、攻めをつないでしまった なんと王手飛車を実現させ、飛車をボロっと入手、
完全に糸谷のペースに!

いったい、なんで逆転したんだ・・・と思っていたのもつかの間、船江が入玉を目指し、
また長い将棋になってきたではないか どうなってるんだ
山崎「何かしら寄せがあったと思いますが」
糸谷は例によって、考慮時間に入ったと思ったらそこですぐ指す、という指し方を連発するので、
見ているこっちまで考えるペースを乱される(笑) 

いまにもすぐ終わりそう、と思ってずっと見ていたが、とにかく長くなってきた
そんな折、糸谷は中空にタダのところに銀を打つ手! 船江はこれを取りたくても取れない?
おおっ これは妙手か! これ、船江、困ったか
糸谷玉はまだまだ矢倉の堅陣、こりゃ決まったか 

船江はとりあえず△8七歩成と王手していったが、
これは、秒に追われて、指す手がなくて困ってやっただけの、時間稼ぎの手だろう
続く△9五桂の王手も、指してみただけの手だろう
だが、解説の山崎は「このタイミング、勝負手ですね」
これがピッタリの表現だった! 糸谷はひょいと端に玉を上がって対応したが、これがどうだったのか

この一連の手順が、ドラマを生んだ 
さっきの妙手だったはずの銀、これが質駒の役目をしてしまっていた!
船江は持ち駒の桂を温存して、合駒に使わずに玉をすっと逃げた
糸谷は秒に追われ、盤上の駒を散らかせてしまうという慌てぶり
山崎「糸谷、乱れましたね 船江が合駒を使わずに玉を逃げる手を軽視していた 
 自玉が受けにくくなくなったので、慌てている」

そして船江、桂を打って先手玉を縛るというという詰めろくさいが詰めろではない、
という、勝負手!(△7三桂)
糸谷が何か受ければ、かえって詰む筋が出てくるという、めずらしい局面が発生した 
うわー なんじゃこりゃ こんなのも将棋にはあるのか

糸谷は慌ててその桂を取りに行ったが、それによって、また先手玉を縛る桂打ちが発生!(△9二桂)
山崎「このために桂は持ってないといけなかったんですね よく手が見えますねー」

船江、△9五桂、△7三桂、△9二桂という桂の3連打で、先手玉を一気に受けなしに追い込んだ
糸谷との対応の組み合わせの妙で、先手玉はたちまち受けなしになっちゃった! うおおー  
これぞまさに「2人で寄せた」というやつだ 船江の不屈の勝負術が豪快に炸裂! 

山崎「糸谷、やっちゃったーって顔してますね」
糸谷は指し続けるが、もう勝ち目がない
山崎「めずらしいですね ここまで指すのは 投げきれないんでしょうね
 (糸谷流の、悪くなってから粘って逆転するという)自分の中での黄金パターンに入っていただけに」

王手をかけれるだけかけた後、ついに糸谷が投げた 176手、船江の勝ち
終局直後、糸谷「そっかぁ いやぁ ひどいなぁ そっかぁ」

山崎「お互いに持ち味が出た、船江が最初にうまく猛攻を決めたと思ったが、
 糸谷の緩急をつけた対応で逆転パターンに入ったんですけど、
 船江のあきらめない執念がこういった逆転を生んだ
 人間らしい熱の入った面白い戦いでした」

糸谷、これは悔やんでも悔やみきれない負け方だろう 
最後のほう、自分が指した手を船江にうまく利用されてしまった 
船江の手との組み合わせの妙で、自爆という結果に・・・
後手の攻めだけでは寄らなかったはずの先手玉が、
双方の協力によって、一気に受けなしになってしまった 恐るべし、将棋というゲーム!
先手玉は2人がかりで寄せられたのだ いやー、こんなことってプロでもあるんだなぁ 

番組が終わる最後に、糸谷がうなだれた姿が映し出された これは後々まで記憶に残る負け方だろう
見ている側にとっては、実に面白いものが見れた(^^; 
惜しむらくは、終盤、あまりに手が早くてじっくり解説してくれる時間がなかったこと、
感想戦の時間が全くなかったこと、そして今日は猛暑ですごく暑くて、ただでさえ頭がぼーっとしたこと

私は録画しているので、終盤を2回見て、やっと上記のことを理解した 
将棋・・・ それは下駄をはくまでわからない、恐ろしいゲーム・・・ 
それを再確認した一局だった 船江の勝負術、絶品だった 糸谷は対局後、アツかっただろうなー
船江と糸谷、2人で作り上げた、終盤の人間ドラマだった