オール・イン 実録・奨励会三段リーグ
天野貴元(あまの よしもと)著 宝島社 1238円+税 2014年3月初版発行
評価 A コンセプト<三段リーグを年齢制限で退会した、著者の半生を綴った手記>

著者は奨励会に10歳で入会し、16歳で三段にまで昇段、そして26歳で退会しています 1985年生まれとのことなので、現在は28歳か29歳ですね 子供の頃から、順に話が始まりますが、よくこれだけ出来事を覚えていたなあ、と感心させられます

プロになれなかったという結果を知っているにも関わらず、これからどうなるのだろう、と、とてもハラハラドキドキしながら読み進めました 読みやすい文章ですが、書かれてある内容の重さに、私は一気には読めず、途中で休み休みしながら読了しました 

文中より抜粋
「三段リーグの世界が一種の『狂気』に支配されていることは間違いなかった。それは勝つことによってしか脱出できない魔境である。」 
「でも、いまの自分から将棋を取ったら、いったい何が残るのか。いや、何も残らない。マイナスの思考が果てしなくループしていく。『そもそも、この人生において、将棋が強くなることにどういう意味があるのだろう』 僕はここにきて、完全に袋小路に入り込んだようだった。」

こう言っては悪いかもしれないんですけど、面白い、面白いです 将棋に青春を賭けた人のみが書ける文、読ませます!
この本、著者は苦しい思い出だったにも関わらず、よく書いてくれたものだと思います 私はこういう本を待ってました 出版してくれて感謝です 
大崎善生さんが名著「将棋の子」を発表したのが2001年、それ以来、実に13年ぶりにこういう本が出たのです 貴重な手記だと思います 奨励会がどんなところか興味ある人は、必読ですね 子供を奨励会に入れる予定のある親御さんもぜひ読みましょう  

雑誌「将棋世界」には、三段リーグを抜けた人が「四段昇段の記」というのを書くことになっています 他にも、順位戦の昇級者が「昇級者喜びの声」というコーナーがあります タイトルを取った人の記事なんかは、日常的です 要するに、勝った側の人の取材しか、ほとんどなされないわけです 負けた側の人にはスポットライトが当たらないんですね 

まあ、勝負の世界ですから、それはある程度仕方ないです それはわかっています でも、勝った人の記事ばかり読んでいると、バランス感覚がおかしくなっていくのですよね 勝った人がいるなら、必ず負けた人がいるわけです そして負けた人ほど、真剣にその将棋や物事を振り返っているはずです 
だから、三段まできて、年齢制限で退会する人にも何かしら、この本のような手記を書くコーナーが「将棋世界」に1ページくらいあってもいいんじゃないでしょうか もちろん、本人がOKすることが前提ですけどね

天野貴元さん、舌がんをわずらい、大変ですけど、将棋に賭けた青春の思い出を糧にして、これからの人生、がんばってください!!