ルポ 電王戦 人間vsコンピュータの真実
松本博文著 NHK出版新書 780円+税 2014年6月10日第1刷発行
評価 A 
コンセプト<図面や符号なしで、今までのコンピュータ将棋の歴史の総まとめをする>

楽しく、一気に読みました 面白かったです 個人的に特に良かったのは、この本の序盤のほう、ソフト開発の黎明期ですね まずは詰将棋を解くプログラムが作られたところから話が書かれてあって、そこらへんのところは全然知らないことが多く、興味深かったです

この作者の松本さんという人は、ソフトプログラマーの方たちが、どういう人なのか、職業とか履歴を(全員ではないけど)ちゃんと一人ひとり調べられていて、そこはすごいなと思いました

2005年のBonanzaの登場以前、以後と話があって、第1回の米長さんの電王戦から第3回の電王戦、そしてついこの前の5月のコンピュータ選手権まで話が網羅されています ただ、個人的には電王戦の話は、知っていることも多かったですけどね

「GPS将棋に勝ったら100万円」という企画に著者も参加し、全国のアマ強豪たちが、わんさと集まり、イベントが一種のお祭り状態になっていった、という話も、なんだか非常にワクワクして読みました そういう裏話が面白いんですよね

この本で図面はいっさい使われておらず、符号が使われたのは2回だけ、米長さんの△6二玉、豊島対YSSの△6二玉という手だけです どんな対局だったのか、他はすべて言葉で説明しています 
手前味噌になりますが、私は個人的にこのブログを書いているので、いったいどのように電王戦の対局を図面、符号を使わずに表現するのか、非常に興味あるところでした 松本さん、うまく表現できている対局もあれば、この表現では厳しいな~と思える箇所もあり、やはり図面、符号なしでは対局の様子を伝えるのは難しい、とも思いました

電王戦で棋士が大きく負け越したことについて、渡辺明二冠がこう語っています
渡辺「もし自分の息子がなれるのであれば、棋士は勧めたい職業でした。好きなことができ、自由で制約がない。でもこの先は、あまり人に勧められなくなるのかもしれません。自分は現在三十歳です。棋士になり、将棋を職業として、ギリギリよかった、という最後の世代となってしまうのかもしれません」 (P236より)
この渡辺の言葉が、全てを物語っていると思います プロ棋士、ピンチ・・・

筆者の松本さんは、なるべく中立的な立場で、客観的にプロvコンピュータの戦いを見つめようとしているのが好印象です  

松本さんはponanzaの作者の山本一成さんと親しいようで、本文中に山本さんの情報にけっこうなページ数が割かれているのですが、ponanzaが5月の選手権で優勝しなくて良かった、と思ったのは私だけではないでしょう
ponanzaの製品版、PonaXは、買った人から酷評されているので、もし選手権で優勝していたら、さらに売れてしまい、被害者が倍増したことが考えられますので(^^;

この本、よく出来ていて、今までの長年のコンピュータ将棋の歴史をざっくりと振り返るには、もってこいの一冊と言えます     
さて、これからプロvsコンピュータはどうなっていくのか?
今年4月の岡崎将棋祭りの石田和雄九段の言葉で、「これはもう、なるようにしかならんですね」というのがありました(^^; まあー、そうでしょうね コンピュータの進歩は止まりませんからね 
果たして、第4回電王戦はあるのか? 注視していきたいと思います