増田裕司 六段vs阿久津主税 八段 NHK杯 1回戦

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増田裕司 六段vs阿久津主税 八段 NHK杯 1回戦
解説 山崎隆之 八段

清水「日曜のひととき、渾身の一手、妙手の数々をお楽しみください」
今日は誰が出るのかな~ 増田と阿久津か 増田は銀河戦で時々解説者として出演して、大盤をよく使って大変わかりやすい解説をしてくれている人だ 対局者としてはどんな風かな
そして相手は新A級の阿久津、切れ味鋭い攻めが見れるか、期待大だ

増田は1997年四段 竜王戦4組、C2 予選で脇、糸谷、杉本に勝ち 4回目の本戦出場
おお、あの強い糸谷に勝ったのか 糸谷の名前がトーナメント表にないのはこの人のせいだったか(^^;
阿久津は1999年年四段 竜王戦1組 A級 予選シード 10回目の本戦出場
竜王戦も順位戦もトップの組で、バリバリの一流棋士だ 今日はいい将棋を見せてよ~

解説の山崎「増田さんとは同門(森信雄門下)なんですけど、兄弟子の将棋を解説できるということで楽しみにしています 増田は作戦家で、力戦に引きずり込むのが非常にうまい 阿久津さんとも普段から親しくさせていただいてるんですけど、将棋に関しては話したことがないです お互いに基本的には相居飛車が得意で、2人とも攻め将棋」

事前のインタビュー
増田「阿久津八段は、切れ味の鋭い攻め将棋で、華のある将棋だと思います 戦型予想は、お互いに居飛車、振り飛車、何でも指すので、力戦型になると思います 5年ぶりに本戦に出ることになりましたので、1回は勝ちたいと思っています」

阿久津「増田さんとは、東京と大阪で離れているので、普段の印象というのはそんなにないです 将棋のほうも、もう指したのはかなり前(最後の対局は平成18年)なので、そこまで印象はないです かなり力戦の将棋を指す印象があります NHK杯ではここのところあまり上のほうまで勝ちあがれないので、とりあえずベスト16に顔が出るところまでいきたいと思うんですけど、
 そういうことを考えずに目の前の一局一局にベストを尽くしたい」

山崎「展開予想は、増田が作戦家なんですけど、力戦になればいいという変わった作戦家 阿久津はセンスがいいので、それにどう対応するかが注目」

先手増田で、3手目に角道を止めた お互いに飛車先突かずの相矢倉に進んだ
山崎「増田が横歩取りを避けて、じっくりとした戦いに持ち込んだ」
あー、相矢倉か もっとムチャクチャな戦法が見たかったが、そうはならなかったか(^^;

雑談で、山崎「兄弟子の増田は、昔、あいさつをきっちりしなかった私の事をしかってくれた優しい先輩 普段は楽しい、話好きな先輩 阿久津も人付き合いがよく、お酒も朝まで付き合ってくれる 
阿久津は『将棋ウォッチャー』で、他人の将棋を観ることが大好きで、一時は女流も含めて何千局という年間の全ての将棋を観ていた」

増田の▲早囲いvs阿久津の△ノーマル矢倉だ 
増田が、まだ金矢倉が完成していないのに、早々に仕掛け、戦いに突入した
山崎「増田は勇気ある指し手を選ばれましたね 離れている金の違和感がものすごいです」
玉の腹に居るべき金を、締まらずに攻めたか ちょっと無理してるように見えるが・・・

増田の積極的な仕掛けだったが、阿久津の待ち受けるところだったようだ
阿久津は中飛車に振り、自然で堂々とした受け
山崎「阿久津は攻めと受けが一体になった手順ですね 増田はどうするか 増田の棋風なら、ここは金を上がるんですけど」
と言っていたら、ホントに増田は金を上がって5筋を受けた~ 
清水「さすが~ 森一門のきずなを見た気がします」
山崎「森一門、馴れ合うのが棋風なんですけど(笑)」
うわー、増田、力強いというか、ムチャクチャというか・・・
 
増田の陣形、こりゃ、奨励会員がやったら怒られそうな形をしてるなあ 金がバッラバラだ
いくら力戦が得意とはいえ、無理しすぎてるんじゃないのか
山崎「阿久津としては、何か良くなる順があると思っているはず 増田としては、これでいいというよりは、予想もつかないような展開にしようとして動いたと思われる ただ、阿久津はわけのわからない局面に誘導されるのが嫌いなタイプではない」

そうだよね~ センスのいい阿久津のこと、これはチャンスと思っているはず
相手はバラバラ、自分のほうは矢倉でガッチリ、これはいけると見ているはず 
いや、もうそれどころか、間違わなければ、もう自分の勝ちと思っていてもおかしくないぞ

そしたら、期待どおりに阿久津がうまい攻めを見せた 歩の突き捨て連発の軽い手筋が炸裂!
山崎「阿久津は7筋と5筋、両方狙ってますね これはけっこう厳しいですねー 阿久津の機敏な攻撃」
なーんか、もう阿久津の攻めの手が止まりそうにない  
そして、増田の棒銀が攻めから取り残されそうな気配がプンプンしている
あーあ、こりゃ、大差か これが一流棋士と、平凡な棋士との差か 早くも私は終了ムードだ

山崎「増田が少し苦しい感じがしますので、嫌味をつけた攻めをした」
んー、でも、A級棋士には結局通用しないだろう? 所詮、もう後はC2棋士の悪あがきだろう?
2筋を攻める増田、焦点の歩の一着を放った 阿久津は玉で取るか? 金で取るか? んー 難しいな
まだ難しいところが残っている将棋なの? そしたら増田は棒銀もさばくことに成功した あれあれ? 
山崎「だいぶ景色が変わりましたね」
んんんーー? なんだなんだ、でもまだ阿久津が有利には変わりないんだろう?

残りの考慮時間、増田▲1回vs阿久津△4回か まあ、4回あれば阿久津なら充分だろう
山崎も、「増田は残り1回ですから、厳しいですね」と発言
ま、後は順当に進めて、阿久津の一手勝ち・・・と思ったそのときだった
増田がなんと、王手になる銀取りを放置で、まさかの攻め合い!! 増田の渾身の勝負手キターーー
おおおおおーーー なんじゃこれはーーー 銀がタダではないかーー 
やけっぱちか? それとも、受けさせてカナ駒の打ち合いでの千日手狙い? ムチャだろうーーー
山崎「すごい勝負手ですね」
清水「手抜きですかー! 王手になるんですけど」

山崎「冷静になれば、銀得の阿久津が優位だが、実戦心理としては嫌に感じる」
阿久津が考えているので、大盤で検討する山崎と清水
どうも、このまま攻め合って、阿久津玉に詰みがないみたい、ということだけど・・・? 大丈夫・・・?
やっぱり最後はA級棋士が勝つ、よね? 作戦勝ちから、銀の丸得だもんね?
山崎「怖いんですけど、読みきれば 首の皮一枚残してるかな? パッと見はギリギリ詰まない」
阿久津が「いやー」とボヤいて頭を抱えた まだ読みきれていない様子!

本局最大の山場だ~ がぜん面白くなった まさかこの将棋がこんなに面白くなるとは!
山崎「ここで逃げているようでは、今の阿久津の活躍はない 開き直らないとね」
そして阿久津、決断して攻め合いにいったーーー 詰みなしと読みきったか!
んんんー、際どいけど、やっぱり詰まないよね? 

王手王手で迫る増田、逃げる阿久津 詰むか? 逃げ切るか? ど、どっちだ
清水「すごい終盤になりましたね」
山崎「だいぶ厳しいかな、という局面からね 阿久津もまだハッキリ自信はないようですね」
どんどん続く増田の王手 すると、山崎がさっき検討を打ち切った局面まで来たけど、
まだ増田に王手する手があったではないか! そ、そんな歩の突き出しが! 
ああああ あああっれっれれえれれれーー ど、ど、どうなってんのーーー
山崎「けっこう予想以上に危ないですね」

バシッ!! 駒音高く、増田が角を打ちつけた!
清水「スリル満点ですね」
んんんんーーー 今の駒音の高さは、もしかして・・・ なんと、増田の読みきった証だった! 
なんと、阿久津玉、詰んじゃったーーー うわー 最後、攻防のカナメと思っていた阿久津の飛車が
邪魔して詰みかあーーー 負けるときはこんなものかーー うわー すごい詰みだったなーーー
数えたら、23手連続王手の詰みだった 手数は87手で増田の勝ち
阿久津にすれば、これは痛恨、堪える逆転負けーーーー ドッカーーン

山崎「劇的な詰み おそらく、詰まない逃げ場所もいくつかあったんですけど阿久津がずっと優勢に進めていたと思うんですけど、増田が勝負手、勝負手と放って、最後の詰む詰まないまで勝負手を放って、阿久津が逃げ間違えたと思う」

感想戦で、増田「最後は運だけで」 それもあるだろうけど、実力もなきゃできない迫り方だったと思う
増田「中盤では、うまく攻められて、しびれた」
阿久津「銀タダ取り放置で攻められて、嫌な予感がしました」
言葉には出さなかったが、阿久津はだいぶ落ち込んでいるように見えた まあー、この負け方ではね
感想戦の最後の時間ギリギリのところで、「阿久津の玉の逃がし方によっては最後、詰まなかった」という結論だった そうか、本当は詰みがなかったか

いやー、でも、久しぶりにハラハラドキドキして、とっても楽しい終盤だった
詰むや詰まざるや、やっぱりプロの将棋はこうでなくっちゃね
途中、もう阿久津の楽勝ムードかと思ってたからね どうせこの将棋も結局、格上が圧勝するんでしょ、みたいな(^^; 結果はC2棋士が、A級棋士に一発入れてやったぜ!っていう感じで、痛快だった
W杯で言えば、コスタリカがイタリアに勝った、みたいなものだ  

私は阿久津も好きな棋士なんだけど、今回はかっこうの斬られ役だった 
ムチャと思える作戦に負けてしまい、この対局の後は、相当お酒を飲んだのではないだろうか(^^;
増田、予選で糸谷に勝ったのに続き、阿久津を倒して、してやったりの大物食いだ
2回戦では増田は菅井と当たる そこでも得意の力戦で、一発かましたれ~ 

<お知らせ> 今日の夜11時30分~12時の30分番組、NHKのEテレ
「サイエンスZERO」で、コンピュータ将棋の話が取り上げられます
http://www.nhk.or.jp/zero/
ぜひ見逃さないようにしましょう!  見逃した方、再放送があります 7月12日(土) 昼0時30分~
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