平成26年版 将棋年鑑2014 棋譜以外の記事レビュー 後編
日本将棋連盟 発行 マイナビ 販売 4600円+税 2014年8月1日初版
棋譜以外の記事の評価 B

さて、将棋年鑑のレビューの後編です
<特集4> 詰将棋の世界 ~看寿と現在~ (分量4ページ) 
これは、すごく良かったです!
「詰将棋は指し将棋から派生したものだが独自の進化を遂げ、そのパズル性、芸術性を高めていった。 現在では指し将棋とは独立した一つの分野となっている。」 
この説明から始まるとおり、私のように、指し将棋とプロの将棋観戦が専門で、芸術的な詰将棋の分野には全く無知な人向けに紹介された特集となっています 取り上げた作品のテーマとして、「裸玉」、「煙詰」、 「長手数」をチョイスしたところが素晴らしいです これなら、一般の人も食いつきます 私はモロに食いつきました(^^; 
「裸玉」では2004年に岡村孝雄氏が発表した「驚愕の曠野」 (こうや) 「煙詰」では1992年に添川公司氏が発表した「大航海」が紹介されています すさまじい出来栄えの作品で、詰将棋が芸術であることが存分に伝わりました 感動しました!

<特集5> 上野裕和の最新将棋事情 ~平成25年度を振り返る~ (分量14ページ)
これまた、素晴らしい特集となっております! 
上野五段と言えば、その著書「将棋・序盤完全ガイド」振り飛車編と相居飛車編が、あまりにわかりやすく読みやすいということで、一躍有名になった棋士です その上野先生がたっぷり14ページ使って最新の流行を解説してくれています 図面は序盤の駒組み段階が中心、進んでいても駒がぶつかった程度のものがほとんどですので、読み手のアマチュアを意識してくれています 相居飛車のほうは符号で進む手数が多めですが、これは仕方ないですね 今は、作戦の数がすごく増えている時代だと思うのですが、上野先生は一つの戦型に深入りすることなく、広く浅く、全体をバランスよく、紹介してくれていると思います 
それでももちろん、プロの最新形なので、読むほうもそれなりの努力は要りますよ(^^; ただ、もうこれ以上わかりやすく説明するのは無理、というくらい、きれいに整理してくれて、がんばって説明してくれているので、そこに読み手は感動するのですよね 上野先生、ありがとう!

さて、次は、巻末の棋士名鑑についてくるアンケートです 
質問の数を、例年の倍の20問に増やしたということですが、どうでしょうか? 質問を全部書き出そうかと思ったのですが、20問もあり相当長くなるのでヤメ(^^; ざっと、印象に残った答えだけ、書き出してみようと思います

森内竜王 Q、好きな駒と理由 「飛車 強い受け駒だから」
佐藤康光九段 Q、棋風を漢字一文字で 「謎」
塚田九段 Q、大笑い、涙したこと 「電王戦」
森下九段は、「特にありません」を5連発して、とにかく全ての質問に答えていました
深浦九段 Q、自分の将棋のどこを見てほしい 「根性」
神谷七段 Q、座右の銘 「老いても子には従わぬ」
長沼七段 Q、口癖 「取っておきますか」
中座七段 Q、大笑い、涙したこと 「民放で豊川さんのダジャレ解説をした番組を観て大笑い」
佐藤天彦七段 Q、この一年で心に残った書籍 「カラー版世界服飾史 勉強になりました」
木下六段 Q、自分の将棋のどこを見てほしい 「見ないで下さい」
窪田六段 Q、影響を受けた棋士 「武者野勝巳七段」
糸谷六段 Q、棋風を漢字一文字で 「変」
伊藤能六段 Q、口癖 「もう死にたい」
清水女流六段 Q、自分の将棋のどこを見てほしい 「初手」
竹部女流三段 Q、大笑い、涙したこと 「『女流棋界の汚れポジション、実はおいしいと思ってるでしょ?』と言われたこと」

んーーー、これくらいなんですよね 上記だけ見れば面白いと思えるかもしれませんが、約200人に20問ずつアンケートして、印象深かったのが、これくらい・・・ 正直、不作でした! 質問の数が多すぎましたかねえ もう、例年の10問でいいと思いますね 「棋風を漢字一文字で」、期待したのですが、難しすぎたのか、「わからない」、答えていない人が多数 そして不作な理由として、棋士のみなさんが質問に必ずしも全部答えてない、ということ むしろ、全部に答えてる人は、ごくまれです そして、受け狙いで全力で答えてくれている人がほとんど見当たらないことですね

さらに、なんと言っても、全く1問も答えてない棋士が大勢いる、ということ 藤井九段、先崎九段、橋本八段、野月七段、豊川七段などの、サービス精神旺盛と思える棋士たちが、アンケートを完全に無視 なんでかな?? この5人なんかは、TVやニコニコ動画の解説ではすごく楽しくしゃべってくれるのに・・・ 棋界のエンターテイナー、佐藤紳哉六段も「身長180cm、70㎏、O型 嫌いな食べ物 マヨネーズ」 答えてくれたのは、たったこれだけ マヨネーズの情報しかないじゃん 

さて、次は棋譜が載っているページの、空いたスペースを埋めている小さいコラムを紹介
「実戦終局次の一手」 実戦図から、詰ます問題が13問ありますが、これは私には全く不要でした こういうのは他の本にまかせて、年鑑は、棋譜並べをする人のために、途中図を増やしてあげるべきでは?

「棋士名鑑アンケートクイズ」 アンケートを元に取り上げたクイズが10問あります 例えば1問目はこんな感じ 羽生、渡辺、森内、康光の身長を、当てろというもの 4つ候補の数字が並んであり、それを4人と正しく結び付けよ、という形式 別のページに答えがある 正解は、羽生が171cm、森内が176cm、渡辺が165cm、康光が168cm・・・ こんなん、すぐ答えを教えてくださいよ 新四段の4人の苗字と下の名前を結び付けろ、というムチャなクイズもあるし・・・ 得られる情報が少なくなるクイズ形式にせず、質問のテーマ別に、ずらっと棋士の答えを並べてくれたら、とても読みがいがあったと思うんですけどね

「トップ棋士指し手分析」 これは、前の2つと違って、素晴らしい試みでした!
羽生、森内、渡辺、康光、郷田、深浦、久保、広瀬の8人、近年タイトル戦に出たトップ棋士を選び、今年指した全ての手のうちで、駒の種類別に、動かした割合を調べた、というものです 
例えば、「歩を動かした割合を示したデータ」 7人は30%付近でほぼ横並びなんですが、1人だけ24.5%と、ダントツで少ない棋士がいます それは誰か? 歩を動かさない棋士です ちょっと考えてみてください だいたい、予想がつくはずです ・・・そう、正解は久保です! 久保は歩を動かさず、他の駒を動かして、さばきにいっている、これがデータで示されているわけです これは画期的ですね 面白い!
他にも、と金を動かした割合が一番高いのは誰か、飛車より角を動かした割合が高い棋士が1人だけいるが誰か、という興味深い結果が出ています また、盤上のどこで戦っているかを調べるために、段、筋でも駒が動いた割合を調べています いや~、こんなデータが取れるんですね パソコンで棋譜管理している恩恵ですね ナイスな企画でした!

「プロ棋士なんでもランキング」 これは、アンケート結果を集計したものです
こういうのがあると助かりますね 自分で集計する必要がないですからね 載っているのも、棋士名鑑の空いたスペースなので、他の記事のジャマになっていません ランキングの中で、好きな食べ物を紹介しておきます 1位 寿司 (30人) 2位 焼肉 (13人) 3位 そば (11人) 4位 パスタ (9人) 5位 ラーメン (8人) そばとパスタとラーメンは麺類なので、寿司と麺類が多数を占めましたね その他のランキングとして、「血液型」 「好きな動物」 「よく観るテレビのジャンル」 「口癖」
「好きな駒」 「この一年で心に残った書籍」 「この一年で心に残った映画(ドラマ)」 「影響を受けた棋士」 「将棋上達法」 が集計されています アンケートで、20問は多すぎたのでは、とさっき私は書きましたが、一人ひとりは平凡な答えでも、集計してみると傾向がわかるので、20問も質問した意味があったかな、という感じですね 

さあ、最後は、今回の将棋年鑑への私の不満です 
これ、私、マジで怒ってます そして、あきれてます というのは、平成25年度の先手番の勝率がどこにも書いてない!!ということです 最初、私は何かの間違いだろうと思ったんです まさか、昨年度の先手の勝率がどれくらいだったか、書いてないなんてことはありえない、656ページもある本だから、見落としたんだろう、そう思って探しました でも、探せど探せど、見つかりません 結局、どこにも書いてないんです!! こんなの、ありえますか?? 昨年度のデータをまとめた本、それが将棋年鑑じゃないんですか? たかが、先手後手の勝率ですよ? 基本中の基本の情報じゃないですか! 
連盟、マイナビは何やってるんですか? もう何十年にもわたって作られている本で、ノウハウとかテンプレートとか、揃っているはずじゃないですか 本当に、信じられないですよ・・・

ちなみに、おととしの将棋年鑑には、巻頭特集の記事で、村山慈明六段の「プロ将棋最先端」の中で、「平成23年度の先手番勝率は5割4分1厘。22年度の5割4分とほぼ変わらず、前年に引き続いて後手番受難の年だったと言える。」とあります この記事で先手の勝率がわかりました しかし、おととしの将棋年鑑でも、データだけを別扱いとしてきちんと取り上げたページはなく、もし村山が文章に書いて触れてくれなかったら、わからないところでした 

ちゃんと、過去10年分くらいの先手後手の勝率差について、取り上げるページがないといけないでしょう こんなの、今はパソコンで管理しているので、一発で出てきます 実際、棋士別にどの駒をどれくらい動かしたかの割合すら、調べられて、現に載っているのですからね 先手番の勝率が載ってないって、ありえないですよ・・・

巻末には「対局日誌」があり、総対局数2813局(不戦・反則・千日手含む)とあり、男女全部の対局結果が載っています どっちが先手だったかもわかります 先手の勝率が知りたければ、これを全部手作業で集計しろってことですか? 冗談はよし子さんですよ

ちなみに、おととしの将棋年鑑のNHK杯の記事ところで、こんな文章を見つけました 「今期の先手勝率は57.1%と高率を示した。平均手数は111手。振り飛車戦が全対局の半数を超えた。」 こんな興味深い結果が出ているんじゃないですか 持ち時間の短いNHK杯で、先手勝率57パーセント・・・ もう3年前の2011年度のNHK杯の話ですけどね

とにかく、個人のデータを扱ったページしかなく、棋界全体の総合のデータを扱ったページが存在しない、というのが大問題です 読者が知りたい情報はいっぱいあるはずです

全体の先手後手の勝率はもちろん、平均手数、そして、どの戦型がどれくらいの割合で指されたのか 男子と女子では先後の勝率はどれくらい差があるのか タイトル戦での先手番の勝率はどれくらいか、先手後手があらかじめ決まっている順位戦ではどうだったか、持ち時間の短く、注目度の高いNHK杯では先手何勝、後手何勝だったか、さらに戦型別の勝率、例えば相居飛車なら先後でどれだけ勝率差があったか、対抗形の勝率は、そして戦法別の勝率、横歩取りの先手の勝率は、後手一手損角換わりの勝率は、などです

個人の成績でも、トップ棋士10人くらいは、先手後手の勝率差が知りたいです 私が以前持っていた、平成20年度版では、羽生の勝率が先手番は25勝5敗、勝率0.833  後手番は19勝13敗、勝率0.594 こんな衝撃的な数字が出ているじゃないですか
 
トップ棋士20人くらいについては、各人の飛車を振った割合もぜひ知りたいところです さらに、今年度の名人とA級棋士に関しては、お互いの対戦成績も載せて欲しいです A級は総当りなんで、絶対に対戦があるわけですからね 1ページ割く意味はありますよ こんなところです 本当に、総合的なデータ、統計を扱ったページが存在しないのは大問題です

マイナビの今年の将棋年鑑の宣伝文は、以下のようです↓
「1年間の将棋界の動きが丸ごと分かる、昭和43年から続く日本将棋連盟の定期刊行物です。対局についても、プロ棋士についても、これ以上ない情報量でお送りします。」

先手番の勝率も載せてなくて、「これ以上ない情報量」って・・・ マイナビさん、HPを見たら、何人もの編集者がさかんにブログを更新していらっしゃいますが、もっとちゃんと年鑑に基本情報を載せてから、ブログで遊んでくださいよ 頼みますよ ホントに!! プロ棋士の棋譜のデータベースは、一般のファンには公開されておらず、使えるのは関係者だけなのですからね

今年は、巻頭特集は良かったです 康光さんの電王戦、詰将棋、上野さんの最新形のまとめ、この3つは執筆者の気合いが伝わってきました 大満足の企画でした 私は来年も将棋年鑑を買おうと思ってます 来年は上記で要望したようなデータをちゃんと載せてください マジでお願いします、頼みますよ!