電王戦タッグマッチの話です 私が前回の9月18日に書いた「意見表明」の記事で、席の足跡《CURIO DAYS》のブログで反響をいただきました どうもありがとうございます 今日から短期連載で、3回に渡って電王戦タッグマッチについて考えてみたいと思います

さて、私は「プロ棋士はコンピュータを使った対局では賞金を受け取ってはいけない」と主張しました そして、「プロ棋士のみなさん、この棋戦について、とにかくまず話し合ってください」と書きました 今のところは、プロ棋士たちが「話し合いの場を持とう、作ろう」という動きは何も見られません

2016年から正式に始まる予定のタッグマッチ棋戦は、竜王戦・名人戦に次ぐ高額の賞金がドワンゴ側から用意される、とのこと 優勝者には少なく見ても1000万円以上の賞金が与えられるのでしょう これだけのお金が賭けられれば、プロ棋士が今まで以上に勝つ確率が高い手を選択することはもう間違いないでしょう すなわち、コンピュータに依存する度合いが、去年や今年のタッグマッチよりも格段に高まるのでは、と推測されます

そこで、私は思うわけです
「なぜなんだろう? ネットの24での bonkrasやponanzaの圧倒的な強さを知らなかったとしても、今までの電王戦で、どんなプロ棋士も、コンピュータの強さはもう分かったはず 10戦でプロ側の2勝7敗1分けという数字からも証明され、何よりプロ棋士ほどの高い棋力があれば、棋譜の内容を見れば、コンピュータの強さは一目瞭然ではないのか? こんなに強いコンピュータとタッグマッチでと組んで戦えば、コンピュータの考えばかり採用してしまう危険があるのは明らかではないか 2年後にコンピュータと組んで、主導権をプロ側が握れるとは到底思えない」と・・・

「なぜプロ棋士たちは棋力が高いのに、未だにコンピュータの強さを認識しないのか?」 この謎に深く迫るために、今回はまず、今までのプロ棋士たちの発言をまとめてみました

先日の9月20日のタッグマッチの解説では、藤井プロがこう解説していた場面がありました
藤井「このタッグマッチというのは、コンピュータの言うことだけ聞いていれば勝てる、そんな単純な話じゃないんですよ」
しかし、この発言、これから先のことも見通して言っているのでしょうか?

今年4月に第3回電王戦の第5局が終わったとき、Ponanzaの開発者の山本さんが、こうインタビューに答えていました
山本「去年の10台のクラスタを組んだマシンより、今年の1台のマシンのほうがPonanzaの棋力は強くなっていると思います」 
これが、コンピュータの進歩の現実なんですよね 2年後の賞金つきのタッグマッチのときは、コンピュータはどれだけさらに強くなっているのか、空恐ろしくなります

その同じインタビューの場で、谷川会長はこう答えました
朝日記者「電王戦、プロから見て昨年度が1勝3敗1分け、今年が1勝4敗という結果だったんですが、レギュレーションとかの話はあると思うんですけど、現状はコンピュータがどういう実力にあるのか、ということをお訊ねしたいんですが? 例えばプロ棋士の中で何位くらいとか、プロの棋戦に出ればタイトルを取るんじゃないか、とか」
谷川「非常に難しい質問ですけども、昨年、今年の結果がありますので、やはりプロでも、えー・・・ その・・・ 中位・・・ 以上の実力があるということは認めざるを得ないかなと思っております」

去年の第2回ではコンピュータはA級の三浦に圧勝、今年の第3回ではレギュレーションでコンピュータ側に相当ハンデがあったのにプロの1勝4敗、そんな現状を目の前で見ても、谷川会長は「コンピュータはプロの中では中位以上の実力」という評価なのです プロ棋士は約160人ですから、真ん中は80位です 80位以上ですか・・・ 

何もこういう発言は谷川会長に限ったことではなく、同じ席で、森下プロはこう言いました
森下「プロ側が手元に盤を置いて動かしながら考えることができて、1手15分というルールで指せば、私はトップソフト5台に5戦全勝する自信があります」

先崎プロは、8月に発売された将棋年鑑の中でこう書いています
先崎「今人間とコンピュータの棋力はどうやらいい勝負なんですよ。で、その状態で戦うとどうしても人間は機械には勝てないんです。(中略)人間にとっては勝負というのはそうやって神経をすり減らすものですから。棋力が同じ機械には理屈からいって勝てないんです。」
私はこれを読んで、おいおい、勝てない、ということは棋力に差がある、という何よりの証明なのでは?と思ったのですが、とにかく先崎プロは、こういう認識なのです

他にも、菅井プロが第3回の電王戦出場前に、こう言っていました
菅井「これからはコンピュータのほうが強くなるという意見が多いと思うんですけど、自分は10年ぐらいしたら、人間のほうが強いんじゃないかなと思いますね コンピュータに抜かされることはないと思いますね」  

とにかく、こういう風に、「プロ棋士はコンピュータの強さを認めない」という風潮があるのです もちろん本来なら、誰がどれだけ強いか、という評価は人それぞれで、全く個人の自由なわけです しかし、このプロ棋士のコンピュータに対するこういう捕らえ方が、タッグマッチの問題をはじめとして、「コンピュータに関して、そもそも話し合いをしない」ということに直結していると私は思うのです 「コンピュータはプロ棋士より弱い、どんなにひいき目に見ても互角程度、だからコンピュータについて自分たちプロ棋士が話し合うことなど何もない」 こういう結論が出てしまうわけです プロ棋士たちにとっては「そもそも、話し合う理由がない」というわけです

ただ、全棋士がコンピュータの強さを認めていないのか、と言えば、そうでもないのでしょう 阿部光瑠プロは違いますね
阿部光瑠「ソフトとすごい対戦している人だったら、あれ(三浦vsGPSの△8四銀)を見ても驚かない  何でもやってくるって考えてるのがむしろ当たり前で 自分300局もやってるから分かるんですけど、そうしないとクセも見抜けないので 強いものだと認めてしまって、受け入れて指せば自分も強くなれるんで」

渡辺プロがつい最近出した本、「渡辺明の思考」にはこう書かれています
ファンからの質問(要約)「プロの公式戦において、荷物検査はあるのでしょうか? もしないなら、途中で席を立って現在の局面を調べられてしまう可能性があるのではないですか?」
渡辺「まず現在のところ荷物検査はないです。でも僕は、あったほうがいいと思っています。以前、携帯の持ち込みを禁止しようという話になったのですが、結局はまとまらなかったんです。 (中略)こういうことは言いたくないけど、この一局だけはどうしても勝ちたい、しかも大金が得られる、という将棋で不正をしないと言い切れるんですかね。状況によってはその人のモラルに任せるというのが、かえって酷ということもあるのではないでしょうか。 (中略)ただ、『ルールは必要ない』と考えている棋士が一定数いるので、それに関しては強く言えない部分があります。」
電子機器の持ち込み問題について、今はまだ何も明文化された規制がないんですね・・・

今回はまず、プロ棋士の認識の現状が、どうなっているかの確認でした 次回では、ではなぜ、「プロ棋士の多くはコンピュータの強さを認めない」という、こういう考え方になるのか これを考えてみます この原因を突き止めてみたいと思いました 「プロ棋士の多くがコンピュータの強さを本当の意味で認めたなら、自分たちより強いコンピュータの手を見ながら戦って高額賞金を得るタッグマッチという棋戦は、自然と成立しなくなる」と私は思ったからです

なぜ、電王戦で大きく負け越したのに、未だに多くのプロ棋士たちが、自分たちは棋力でコンピュータに劣っていないと思っているのでしょうか? 「そりゃ、単純だよ、プロは子供の頃から将棋一筋で生きてきて、プライドが高いからだ」という意見がすぐに返ってくることでしょう もちろん、それはそうで、激しく同意なのですが、もっと深くまで掘り下げて考えてみましょう (明日の、その2に続く)