その4からの続きです
「プロ棋士はコンピュータに負けた そしたら今度はコンピュータを対局中に使いながら、高額賞金をもらうようになった」
世間一般の人たちがこのことを知ったとき、どういう評価を下すのか・・・  
2年後の電王戦タッグマッチという棋戦は、本当に大きな賭けだと思います それも、とてつもなく危険な賭けです  

この棋戦が仮に「失敗」し、世間一般の人たちのプロ棋士へのイメージが大きく変わってしまったとき、それは連盟にとって、取り返しがつかないことになることは間違いないと私は思います 

しかし、プロ棋士たちはこう考えるかもしれません
「プロ棋士は将棋ファンによって支えられているんだから、世間一般の人たちの評価などは、それほど関係ない」
本当に、そうでしょうか?

そこで、今回はこの設問を考えます 「連盟を根底で支えているのはいったい何(誰)なのか?」

まず、プロ野球球団や、プロサッカークラブの主な収入源は、何でしょうか?
それはもちろん、試合を見に来てくれる観客が払う、入場料です TVの放映権料などもありますが、メインはあくまでファンに直接、球場に足を運んでお金を払ってもらう入場料です

それに対し、将棋連盟はどうでしょう? 千駄ヶ谷の将棋会館に、ファンに大勢足を運んでもらって、入場料を払ってもらっていますか? タイトル戦で、ファンが直接見にいきますか? 大盤解説会や前夜祭などで、限られたファンから直接お金を払ってもらうということもありますが、全くごくごくわずかの金額でしかありません メインの収入源は何か? それは、新聞社からのスポンサー料ですね これで連盟は収入を得て、プロ棋士は生計を立てているのです

では、新聞を購読している人、というのはどういう人たちでしょう? 世間一般の人たちですね もちろん将棋のファンも新聞は買うわけですが、将棋には全く興味がない人たちのほうがもう断然、圧倒的に多いですよね つまり、連盟のスポンサーは新聞社ですが、その新聞社にお金を出しているのは、将棋に全く興味のない人たちが圧倒的な割合だ、ということです 
連盟の収入、プロ棋士の対局料の主な出所を考えると、実は将棋に関心のない一般人のフトコロだ、ということが言えるのです

ではなぜ、新聞社は棋戦のスポンサーになり、プロ棋士の棋譜を載せたがるのでしょうか? 将棋欄を読む人は少ないのに? それは、新聞社にとって、それが社会的なステータスになる行為だからです いわば、大新聞の証、というわけです
世間一般の人たちにはプロ棋士に対する尊敬の念がある、だから新聞社にとってはプロ棋士の棋譜を紙面に載せるのは社会的ステータスになる、という図式が成り立っているわけです 

ところが、この図式が崩れたらどうでしょう? つまり、2年後の電王戦タッグマッチで、世間の人の間に「プロ棋士は自分たちより強いコンピュータの手を見ながら指している 自分の頭で考えず、ただコンピュータの指示どおり、駒を盤の上に置いているだけ 幼稚園児でもやれることをして、高額の賞金を得るようになった」という評判が広まってしまったら?

今までの「プロ棋士への尊敬の念」が、ガラガラと崩れ、「プロ棋士に対する軽べつの念」が一般に広まってしまったら?
最悪の場合、棋戦のスポンサーになっていた新聞社らが、いっせいに手を引く可能性が出てきますね
新聞にプロ棋士の棋譜を載せることが、社会的ステータスでは全くなくなるからです

それでなくとも、2年後からの電王戦タッグマッチは、竜王戦、名人戦に次ぐ高額賞金で、非公式戦とはいえ、序列3位のビッグ棋戦になるのです 序列4位以下に落ちる棋戦を主催しているスポンサーたちは、これをどう思うのでしょう?
プロ棋士がコンピュータと組んで指すという、わけのわからない棋戦が、まじめなルールでやっている自分たちの棋戦よりも格上になってしまったと感じるでしょうから、不愉快な話だと思います

プロ棋士はコンピュータにすでに負けたわけだし、ただでさえ、近年、新聞社は購読者数が落ち込んでいるのです (つい先日も、Yahooニュースで時事通信が新聞購読の割合が過去最低を更新、と報じたばかりです 2008年から毎年行っている調査で、購読者は初回の86%からおおむね減り続け、今回が74% ということです たった6年で12ポイントも減!) 

2年後の電王戦タッグマッチには大金がかかってくるわけですから、プロ棋士たちは普通の棋戦よりも、このタッグマッチに事前の研究などの力をそそぐことになるでしょう
そうなると、普通の棋戦のスポンサーたちから、連盟に対して棋戦の賞金額の減額要求をしてくることが考えられます (このとき、スポンサーにとって都合がいいのは、竜王戦以外の棋戦は、賞金額、対局料が非公開だということです 賞金額を減らすことにより、その棋戦を潰さず、連盟に払うお金を減らすことが可能なわけです) 
普通の棋戦を主催するスポンサーたちの言い分は、「世間の人のプロ棋士に対するイメージが大きく変わったからね 連盟のブランドは地に落ちたよ これからは、お金が欲しいならドワンゴからもらえば?」ということです

2年後の電王戦タッグマッチで高額賞金をもらってしまうことが、連盟にとって、プロ棋士たちにとって、どれだけのリスクがあるのか、わかってきたでしょうか? 

まとめると、連盟のメインスポンサーは新聞社ですが、その新聞を買っている圧倒的多数は、将棋ファンでなく将棋に関心がない人たちだということです
それでも新聞社が紙面を使ってプロ棋士の棋譜を載せているのは、棋戦を主催することが社会的ステータスだからです
つまり連盟を支えている基盤の根底にあるのは、「将棋に関心のない世間一般の人たちの、プロ棋士たちに対する尊敬の念なのだ」 この事実に、プロ棋士の人たちに、原点に戻って今一度気がついて欲しいのです 

起動戦士Z(ゼータ)ガンダムというアニメがあります 最終回では、主人公のカミーユは精神崩壊を起こしますが、その直前、彼はこう叫びます 仲間が次々に大量に殺されたときのシーンです
カミーユ「生命(いのち)は、この宇宙(そら)を支えているものなんだ それを、こうも簡単に失っていくのは、それは、それは酷いことなんだよ!!」

このカミーユのセリフが、今の私の気持ちを代弁してくれています
ギズモ「世間の人が抱く将棋のプロ棋士への尊敬の念は、連盟を支えているものなんだ それを、こうも簡単に失っていくのは、それは、それは酷いことなんだよ!!」
(次回その6に続く あさって金曜に掲載予定)