2年後の電王戦タッグマッチで、プロ棋士が高額の賞金をもらってしまうことは、アマチュアにも少なからぬ影響を及ぼすのは間違いないでしょう
次のような未来予測を私が考えてみました 201X年の週刊誌の記事です

<201X年 週刊凸凹 臨時増刊号より>

先日行われた将棋のアマチュア界最高峰の棋戦、アマ名竜戦の決勝戦でその事件は起こった。
決勝を戦うのは、初出場のA君(5歳)、そしてBさん(90歳)。 
ここまで目立った実績は全くない2人だが、このアマ名竜戦の決勝まで勝ち抜いてきた。
大勢の関係者が見守る中、決勝戦が開始された。序盤からいきなり戦いとなり、激しい攻防が続いたが、形勢は不明のまま。
2人ともほぼノータイムで指していく。あまりのレベルの高い内容に、観ていたプロ棋士の一人も、驚きを隠せない様子だ。

しかし、ここでA君のかけているメガネ、それがA君の顔に対して大きすぎることに観ていた一人が気づいた。
あのメガネは、もしや・・・? 急きょ大会本部の審判団によって対局が中断され、A君が呼ばれた。
そして発覚したことは、驚くべきことであった。A君がかけていたメガネ、それは一週間前にSomyから発売された、「あんたも名人」という将棋専用のコンピュータ搭載のメガネであった。「あんたも名人」は近年赤字決済に落ち込んでいるSomyが社運を賭けて開発したもので、定価9万9800円(税別)。A君は、このメガネで「カンニング」してこの決勝まで勝ち抜いてきた、というのだ。審判団が集まり協議され、これは当然A君は失格処分か、と思われた。

しかし、審判団が裁定結果を下す直前、Bさんが口を開いた。なんと、Bさんが「ワシも『あんたも名人』メガネをかけているのじゃ」と告白したのだ。Bさんのメガネよく見ると、A君の黒色のメガネと違って白色だが、これはSomyが色違いで生産していたホワイトバージョンであった。

これには会場の誰もが騒然となった。両者失格か・・・。
しばらく審判団による協議が続いたのち、意見がまとまり裁定が下された。
この大会の審判長の役目を負っていた、日本将棋連合の谷山会長が口を開き、こう言ったのである。
谷山「『あんたも名人』メガネをかけて対局してここまで勝ち進んだことは、この大会のルールに抵触する。しかしこの決勝戦では両者ともに同じ条件で戦っている以上、公平と言うべきである。よってこの対局を認めないわけにはいかない。決勝戦はこのまま続行し、勝ったほうを優勝者、アマ名竜とする。」

なんと、谷山会長は「あんたも名人」メガネを使用したまま対局することを認めたのである。
決勝戦は続行され、終盤はプロ棋士でも解説のサジを投げるような、難解極まる戦いが繰り広げられた。
しかし、Bさんに一手甘い手が出たところで、A君が怒涛の長手数の即詰みを決め、見事勝利。
アマ名竜を史上最年少の5歳という若さで勝ち取ったのだ。

優勝したA君「将棋は3日前に覚えた。誰にでもすぐ勝てるので楽しい。将棋は楽勝。将来はプロ棋士になって、タイトルを取って大金持ちになる。このメガネがあれば勝てる。Somyにはもっと性能のいいものを出して欲しい。あと、子供用のサイズも。」

準優勝のBさん「ワシは万年アマ10級じゃが、このメガネのおかげで大きな大会でここまで勝ち進む経験ができた。今日の対局は、終盤に自分の指したい手があり、一度だけそっちを指してしまったのが敗因じゃ。今後の大会では、メガネの指示する手をいかに100%信用できるかが大きな要素になる。技術の進歩は素晴らしい。まだまだ長生きして、現役プレイヤーとしてがんばりたいのう。ワッハッハ。」

なお、大会後、日本将棋連合から公式発表があった。「来年からは、アマ名竜戦をポータブルコンピュータの持ち込み、及びその手を参考にしながらの対局を可とする棋戦にする。」
これにともない、アマ名竜戦の主催社であった朝読新聞は、主催を降りるとのコメントを発表した。
朝読新聞広報「棋戦の性質が大きく変わるので、我々は主催を降りることを決定した。」
代わって、株式会社ドニャンゴが新たに主催社になる見込み。
ドニャンゴの川下会長のコメント「伝統あるアマ名竜戦を主催できるのはうれしい。ドニャンゴが主催する以上、高額の賞金を用意してビッグな大会にして盛り上げて、将棋界の発展に貢献したい。アマチュアもコンピュータと共存共栄の時代。これからはアマチュア棋戦でもコンピュータの持ち込みが当たり前になっていくのでは。」 
(201X年 週刊凸凹 臨時増刊号より)



・・・上記はフィクションですが、現実にこういう事態にならないとも限りません 「アホなこと言うな」と思われるかもしれませんが、実際に「アホなこと」を2年後にプロ棋士たちが行うことが決定しているのですよ? 今だって、もうタッグマッチ自体は、すでにやっちゃってますしね 

相手も同じ条件の場合はいいだろう、そういう話では収まらないのは明白でしょう
アマチュアのモラルがもう断然低下しますね
今まではプロ棋士は、アマチュアの模範になる存在でした そのプロが「対局中にコンピュータの手を見ながら指して大金を得ている」という紛れもない事実は、アマチュアに「対局中にコンピュータの手を見ることは悪いことじゃないんだ、むしろ奨励されることだ」と認識させるのに充分すぎることですよ 
アマチュアの理屈にしてみれば、「プロですら許される、それどころか勝ったら大金と名誉がもらえているじゃないか だとすればアマチュアも当然許される」ということです

「将棋指しのモラル」は、「大会のルール」より、もっと深い部分で将棋というゲームを支えているものです それをプロ棋士自らが破壊するんですか? 

アマチュアの大会だけではなく、ネット将棋にも、間違いなく深刻なダメージを与えますね
将棋倶楽部24では、コンピュータの手を見ながら指す「ソフト指し」は厳禁です 「ソフト指し」がバレた場合、その会員は永久会員停止という厳しい罰則が設けられています 
24では過去のある時期、高段者たちが集まるタブ(区域)には、ソフト指しがあまりに蔓延したため、普通に指していた高段者たちが激減、来なくなりました 
事態を重く見た席主の久米さんは、「ソフト指し取締委員会」を設置して、手作業で一人ずつ疑惑の会員とソフトとの指し手の一致率を計算、そしてソフト指しと判明した会員を会員停止にしていきました そして、やっと普通に指す高段者たちが戻ってきたのです 

今でも「ソフト指し」をする会員とのいたちごっこは続いており、「ソフト指し取締委員会」の人たちは、ボランティアでがんばっているのです 久米席主も、度々会員に「ソフト指しは厳禁です」と呼びかけられています 
ソフト指しは高段タブに限らず、割合は少ないながらも、もっと低い段級の人も、いつ被害にあうかわかりません

24は、連盟運営のサイトです 今月の将棋世界にも、1ページ全体を使ってこういう宣伝が載っていました
「将棋連盟運営 世界最大のインターネット将棋道場で安全安心な対局を存分にお楽しみ下さい!」
山口女流と藤田女流がかわいらしくポーズをしていました
・・・全然、安全安心じゃなくなってしまうではないですか ソフト指しが堂々と行われる風潮になってしまうじゃないですか
プロ棋士自らが「ソフト指し」に当たることをやってしまうのですよ? 24ではレーティングという点数を賭けて対局しますが、プロ棋士は高額賞金を賭けて対局するのでしょう? どっちが重大ですか?   

24のみならず、他の将棋ウォーズなどのネット将棋対戦サイトにも、当然影響は及びますよ ネットでは、対局者どうしのモラルが命綱なのですよ そのモラルをアマチュアのお手本になるべきプロ棋士自らが、破壊してしまうのですか?

プロアマ問わず、「将棋指しのモラル」は「大会のルール」より根深いところに存在し、将棋というゲームを支えているのです 連盟、そしてプロ棋士たちはそれを理解してくださいよ・・・
(その7に続く 来週の水曜掲載予定 次回でこの短期連載はいったん終了です)