深浦康市 九段vs森下卓 九段 NHK杯 2回戦
島朗 九段

今日は深浦と森下、手厚い居飛車党どうしの対戦だ 解説は島さんか 島さん、NHK杯では出場者としては長いこと観ていない・・・(^^; 

深浦は1991年四段、竜王戦1組、A級 1回戦シード 22回目の本戦出場 42歳
森下は1983年四段、竜王戦2組、B2 1回戦で広瀬に勝ち 24回目の本戦出場 48歳
1回戦のvs広瀬では、広瀬の矢倉に対し森下は急戦矢倉で挑み、素晴らしい指し回しを見せて広瀬を圧倒、完勝していた

清水「島九段は連盟の常務理事をなさっていらっしゃいますけども」
島「対局は惨たんたるものなんですけども、おかげさまで元気でやっています 森下九段は棋士の中でも私が一番親しいと言っていいくらい、年代もそんなに離れていません(島は51歳) 本当に誠実、人柄も誠実、きちんとされた方ですね 
今日は相手の深浦九段もそうなんですけど、プロの振る舞いっていうのをぜひ視聴者の方に観ていただければと思います
深浦さんは同門ということで、同じ九州出身棋士で熱さがすごくある方だと思います 羽生さんとかに対してでも、常に勝つ気満々で立ち向かう気持ちの人なので、それが大棋士になった大きな要因ではないでしょうか」

事前のインタビュー
深浦「森下九段には、奨励会の時分から将棋を教わったんですけども、手厚い将棋を叩き込まれました 今日もそのつもりで心構えしてきました 森下さんからは色んなことを教わったんですけども、それを踏まえつつ少しでもがんばれればいいと思います また花村先生にほめられるような将棋を指したいと思っています」

森下「深浦九段は私の花村一門の後輩に当たるんですけども、もう根性のカタマリと言える存在なんですね 常々、あの根性が少しでも私にあればなあ、と思っております 本局は深浦九段の根性に負けないくらい私も根性を出してがんばりたいと思います」

インタビューを聞いていた島「お二人の師匠の花村の名前が出ましたけど、師匠の花村は豪快で磊落(らいらく 意味は「度量が広く、小事にこだわらないこと」)なイメージだったんですが、お二人はそれとは違った、非常にきちんとした将棋が全面に出ます ただ、本質はお二人は乱戦が好きなんですよ 教科書どおりの将棋とは程遠い、乱戦になってからがお二人の真骨頂だと私は思っています 根性って、今あまり聞かないですけど、将棋の本質かもしれませんね」

先手深浦で、相掛かりになった すぐには戦いにならず、両者、駒組みを進めた
島「もう研究将棋じゃない」

2人の対戦成績が出て、深浦2勝、森下5勝とのこと 両者ベテランのわりに、あまり戦っていないな
最後に戦ったのは平成20年ということは、もう6年も前か

深浦の▲矢倉vs森下の△カニ囲いで、持久戦になっている 駒組みが長いので、島が雑談をしてくれた
島「森下システムってあったじゃないですか 深浦が若手の頃、ずいぶんそれを使って活躍されてました 森下システムの極意はですね、良くするための戦法じゃないらしいんですよ 50vs50にするための戦法らしいんです つまり中盤まで大過(たいか 意味は「大きな失敗」)なく進めることで、最後は強い方が勝つことにすればいい戦法なわけです 森下システムは強い棋士がやるのは非常に有効なんだけども、そうじゃない人がやると逆に順当に負けてしまう、恐ろしい戦法らしいんです 私はもうちょっと早く聞きたかったですねえ(笑) だから藤井システムとかと、仕組みが違うんですよね」

へー、そうかあ 森下システムの狙いは中盤まで五分五分で進めることにあったのか 居飛穴に対して居玉で一気に潰しにかかる藤井システムとは全然違うね

島「森下は嫌いなのは横歩取り 全部の駒を使わないのでね 本局は森下の一番好きな将棋ですね ここまでは若干、森下がうまくやっている序盤」
・・・と、島が言ったその時だった 森下が△4四角と5三から1マス動かしてラインを変えた一手、これが島の絶賛した手になった

島「これが狙いでしたか これが狙いでしたか(2回繰り返した) きれいな将棋ですねー 美しいですね これは素晴らしい こういう構想だったんですね」
うお、この角が深浦の矢倉に入城した玉をにらんで強烈なのか んん、それによく見たら、なんかこれ、森下の攻めの陣形がすごく良くないか 森下の全部の攻め駒が好ポジションに居る 深浦、これは? まだ駒がぶつかっていないうちから、かなりもうヤバイのでは?
 
島「結果は分かりませんが、森下の完璧な序盤の指しまわしと思われます 森下の角はこれ以上ない良い位置 深浦はまだ良いところが出ていない」
大盤を使った解説で、島は森下が上部から深浦の矢倉を一気に押しつぶす手順を指摘
・・・こ、これは? 深浦、もう逃れようがないのでは? いつの間にこんな作戦負けに? おいおい、大ピンチじゃん なんでこうなったんだ 深浦はもうすでに、まな板の上のコイという状態だ 森下に攻めつぶされるのを待つばかり! うわー 序盤の駒組みでここまで差がついたのは、プロどうしではめずらしい! も、森下、恐るべし!

島「でも深浦はここからが力の出しどころですので」
いやー、これはいくらなんでも、差がひどすぎるだろう 対局者はアマ低段どうしじゃない、プロどうしだ 攻め合いに全くならない形なので、見た目以上の差があるわ 
森下は慎重に時間を使った後、いよいよ仕掛けてきた 歩を4つ突き捨てての総攻撃だ

島「ここから深浦は予想もしない、しのぎをいっぱい出してくると思います 深浦は勝ちの可能性のある手を探すのがうまいんです」
しかし、現実は非情 森下の気持ちのいい攻めが続く これは、大差では・・・ 少なくとも、森下が間違えない限り深浦に勝ち目はないわ

島「厳しい攻めですね~ 私はとても淡白なので、これだと半分・・・ 私が深浦の側を持っていたら、半分ちょっと・・・ かなり・・・ ダメージを・・・」
清水「それほどの局面を迎えていますか」
おお、島さん、「投了」の二文字はかろうじて口に出さないものの、もうあきらめムード(笑) 持ち時間の長い将棋で対局者が島さんなら、ここで投げてもおかしくないな~(笑)  マジで、それほどの局面だ 

深浦、なんとか粘るべく、玉を1マス、スッと引いた とりあえず角のラインから逃げたか なるほど、森下も読みにない手だったかもしれない
島「まずは1つ、深浦のこの玉引きはさすがって感じです」

しかし、森下の攻めが続く 矢倉崩しの手筋の初級者編に出てくるような△6六歩という急所の歩が入った
島「森下がこのまま優位を拡大しますと、生涯の一局になりかねない会心譜になりますね 深浦としてはこんな△6六歩を打たれた経験はないと思いますね それだけ森下が冴えてる 1回戦のvs広瀬でも、森下のあまりの強さに感激したと若手棋士が言ってました 深浦がここまで押しまくられてるのは、あまり見たことがない」

森下、ここから攻め切れるか? まあー、大丈夫だろうなあ ものすごい作戦勝ちだもん それに、深浦が攻め合いを望めないっていうのもポイントだ これは森下が勝つわ それも大差で勝たないとおかしいわ

深浦、なんとか粘る順を繰り出している 働いていなかった右銀を活用だ
島「出ましたね、深浦の受けの第2弾 森下がコーナーに追い詰めている感はあります 深浦は22回、NHK杯に出場していますけど、今日が一番良くないんじゃないでしょうか 信じられないくらい押されています 森下の攻めは飛車角銀桂の全部を使った理想形」
森下の序盤があまりにもうまかったな もう勝負は決まっただろう、TV消すか?(笑)
 
両者、考慮時間が0回になった ここからは30秒将棋 駒割は、森下の銀の丸得 しかし歩切れ どう決めるか?
島「森下は手が多すぎて、広すぎて、間違えやすい局面ではある 深浦はさすがですね 絶望的な局面だったと思うんですけど、嫌味を見せてきました 森下はもっと大差に出来たはずだという思いがあるでしょう」
んんー、まだ逆転の可能性がある? 決定的な差がつけられなかった? ええー? でも、でも、さすがにこれ、森下が押し切るんだろ?
しかし、島の予想手がはずれまくっていて、何かが起きそうな空気が・・・

島「森下将棋は、躍動の桂跳ねですかね~ それくらい当たって欲しい」
森下が角取りに桂を跳ね出し、そこまではずれていた島の予想手がようやく当たった
島「あ~ うれしい(^^;」

その直後だった 深浦、なんと角取り放置で、持ち駒の角を▲7六角と盤上に放った んん、何コレ? 意味がわからんが?
島「この▲7六角は、森下の飛車が4筋に転回してきて4九に成ろうとしたときに、4九を守っているんです さすが深浦が本領を発揮してきましたね」
ええー、す、すごい 森下の飛車が4筋に回ってきたときのことを想定した角打ちなのか そして攻めにもすごく利いている な、なんという角・・・ しかしそうすると、森下は当然、飛車は4筋に回って来ないだろう ・・・と思ったら、森下、4筋に飛車を回ったぁぁぁ~!! な、何で~ 4九に飛車は成れないんだって!! どういうこと??

島「え~!? そうですか!? え~ これ、メチャクチャきついです!? 飛車取りに桂打たれるのが、いやこれは痛すぎるような!?」
そして島の予想手のとおり、桂を打って攻める深浦 これで一気に攻守逆転!! これ、どういう展開??
島「なんかすごいドラマを見ているような・・・ 深浦の本領がここまで出てる将棋もなかなかない 森下はこんなはずではなかったですねー いやあ楽しい終盤になりましたねー」

おいおい、どっちが勝ってるねん あの序盤の作戦勝ちから、なんで森下の圧勝じゃなくて、こんなに競ってるの??
島「素晴らしい終盤です 森下の、追いつかれてもすぐ崩れないところもすごい 名局になってますね」

どっちが勝つか、わからないけど、あの大差から追いついた関係上、ムードが深浦に行っている 深浦、押せ押せだ
島「(大事なのは)あきらめない気持ちなんですね~ 圧倒されていて、これをはね返せるのは深浦だけでしょう」

森下、玉を左に逃げるか右に逃げるか、というところ、勝負で狭いほうをわざと選んだが、深浦の飛車にズドーンと成り込まれて、必至がかかってしまった 森下は深浦玉を王手で追ったが、詰みは・・・ 全然なかった・・・
133手、深浦の大逆転勝ち!! な、なんという・・・ これ・・・ 深浦の追い込みもすごかったけど、森下、この圧倒的に作戦勝ちな将棋を逆転負け! も、森下・・・ 森下・・・ これを負けるか・・・ 

感想戦がなくて残念だったが、ちょっとだけ終局直後の森下の声を拾うことが出来た
森下「決め手がね~ 分からなかったんですよね~」

島「深浦の本領発揮しすぎの逆転勝ちでした 森下としては手が広すぎて決め手をちょっと迷ってしまいました ただ▲7六角からの逆転打が鮮やかでしたね ホントにねじり合いのすごい将棋でした 期待どおりでした」

深浦の▲7六角は、まさに絶妙手だったな~ 4九の飛車成を防いでいたんだもんなあ それにも関わらず、飛車を4筋に回した森下っていったい・・・(^^; 
島さんの「期待どおりでした」の言葉、ちょっとトゲがある言葉とも受け取れる(笑) 
序盤のうまい森下が圧倒的に作戦勝ちして、それを深浦が根性と才能で大逆転する、という、これ以上ないオイシイ展開(笑) もうね、ここまで良く出来たシナリオは、どんな脚本家でも書けないよ(笑)

この一局、「深浦の本領発揮」というよりも、「森下の本領発揮」と言うほうが的確と思う人が多いだろう 私もその一人だ(^^; ここまで圧倒的な作戦勝ちを収めておきながら逆転負けできるのは、森下くらいではなかろうか(^^;
藤井もファンタジスタだけど、対抗形は飛車側で戦いが終わった後も、まだ玉側での戦いが残っているから、逆転の余地が多い しかし、相居飛車でハッキリ作戦勝ちしたら、たいがいそのまま押し切れるものだ
   
いや~、森下、魅せたな~ もう、これ、言っていいのかわからんけど、ここまで来ると「笑いが取れる棋士」と言っていいだろう いや、負けた棋士を悪く言うつもりはないんだけど、しかし、プロどうしでここまで圧倒的な作戦勝ちから、ものの見事に逆転負けを喫する棋士・・・(笑) 森下、その序盤力と中終盤力の落差、人間味あふれる、なんと魅力たっぷりであることか! 感動を呼ぶ棋士というのは多いけど、笑いを取れる棋士ってめったにいない、森下は、まさに将棋界の逸材だ! 

島は解説の途中で、「森下の生涯の一局になりかねない」と言っていた その言葉どおり、「森下将棋・逆転負け局集」の巻頭を飾りそうな一局で、実に面白かった(笑) まさに「傑作」というやつだ いや、だって、面白かったんだから、しょうがない これぞ、人間どうしの戦いだね! 森下、最高~! すごく楽しかった、ありがとう!!