松尾歩 七段vs丸山忠久 九段 NHK杯 2回戦
高橋道雄 九段

今日は松尾と丸山か なんとなく、似たものどうしの対戦 実力が同じくらいで、居飛車党 そして、なんか目立たない(^^; いや、目立とうとしない性格なのだろうね

松尾は1991年四段、竜王戦1組(来期は2組)、B1 1回戦で中村亮介に勝ち 11回目の本戦出場
1回戦のvs中村亮介は、今期の開幕カードで、亮介の振り飛車で対抗形になり、松尾が見事な25手の即詰みを決めて快勝している (もちろん覚えてるわけではなく、今調べたのです)
丸山は1990年四段、竜王戦1組、B1 前期NHK杯で準優勝により1回戦シード 24回目の本戦出場
うわ、丸山は前期準優勝か もう私の記憶にないが・・・(笑)

解説のタカミチ「松尾は居飛車党、角換わりの他に矢倉、横歩取り、居飛車系なら何でも指せる 丸山も居飛車党で角換わりを得意としている 先手でも後手でも角換わりを指す」

事前のインタビュー
松尾「丸山九段は攻守にバランスの取れた手厚い将棋を指される 普段は将棋会館で会ったりしても、気さくに話しかけてくれる先輩ですね (抱負は)いつもどおり集中して指すだけだと思うんですけど、一戦でも多く指せるようにがんばりたいですね」

丸山「松尾七段は最新形に非常によく精通していて、手厚い将棋という印象です 集中してがんばりたいと思います」

タカミチ「お互いによく分かっているどうしの対決ですので、どちらが自分のペースに持ち込めるか」

先手の松尾の作戦、それはなんと初手▲5六歩からの中飛車だった しかし、特に驚くべきではないかもしれない 松尾は前期銀河戦の銀河戦の決勝トーナメント(対局日は今年の6月~8月)で、ベスト8のvs郷田、準決勝のvs羽生、そして決勝のvs渡辺と、すべてこの先手中飛車で戦っているのだ 結果は決勝で負けたが、郷田と羽生を見事に破っている
vs郷田とvs羽生では、ごく普通の▲振り飛車vs△居飛車の対抗形になって松尾は美濃で戦ったが、vs渡辺では、渡辺が相振りにしたため、松尾は左玉にして相穴熊になっている(もちろん、これらも今、調べなおした(^^;)

対して、後手の丸山の対策、それは相振りだった きっと、銀河戦の棋譜を研究していたのだろう 
タカミチ「最近では松尾が中飛車をやっているのは見たこともあるんですけど、この対戦カードではほとんどが相居飛車系なんですよね 今回もそうかなーと思ったら、いきなり中飛車でした それに対して丸山が全く迷わず三間飛車、お互いに呼吸が合ってるなー」
うーん、タカミチさん、あんまり銀河戦を知っていないのかなあ 一応、松尾は準優勝したんだけどね(^^;

松尾は例によって玉を左に持ってきて、持久戦の目指す構えだ これは、中飛車左穴熊というやつに組むつもりだろうね 
タカミチ「居飛車風の中飛車が今、流行っている この構えだと、居飛車の仲間に入れたいくらいなんですよね」
清水「相振りではない?」
タカミチ「玉があっち(左)に行くと・・・ やっぱり居飛車に入れたいかな・・・ 戦型分類が非常に難しい これは新しくできた形ですね」
うむ、この戦法は相振りなのか、対抗形なのか、見解が分かれるなあ(笑) 振り飛車かと考えると、従来の相振りとは明らかに違う でも、居飛車かって言われると、早々に中飛車に振ってるんだから、そうでもない かと言って、「その他の戦型」に入れるほどの力戦調かと言うと・・・ うーむ(^^;

過去の対戦成績が出て、松尾3勝、丸山9勝とのこと
タカミチ「松尾はここのところ、丸山の一手損角換わりに痛い目に合い続けているんで、今日は気分を変えてというところかな」
んー、銀河戦の決勝トーナメントで郷田、羽生、渡辺を相手に松尾は先手中飛車を3連投・・・(^^;

雑談で、タカミチ「松尾はいつも穏やかですね 発想が豊かで、松尾新手というのもけっこう世に出している 活躍してもっともっと名前が売れるべき存在と思うんですけど、丸山を含めた上の世代の人たちを突破するのが大変なんですよね
丸山は対局以外の仕事って受けないんですよね あまり解説とかイベントとかで出ることも少ないですよね ファンの方に聞いたら、『もうちょっと姿を見たい』っていう人が居たんですけど、丸山は出てないですね 対局最重点主義、他のことはやらない、徹底しているんですね 普段はすごく明るくて、よくしゃべるんですけどね」

まず松尾の話から 私の松尾のイメージは、えーっと、いつもそこそこ勝つけど、目立たない人 以上 ・・・って、ダメか?(笑) 前期の銀河戦では活躍したんだけどね 優勝していたら、相当有名になるチャンスだったけど、準優勝だったからね 先手中飛車3連投で戦った内容は、ベスト8のvs郷田は快勝、準決勝のvs羽生は苦しい内容を逆転勝ち、しかし決勝のvs渡辺は、渡辺の強さがいかんなく発揮されて、完敗だった この一局は渡辺があまりにも強すぎて完璧で、誰が相手でも手に負えなかっただろう  

丸山に関しては、実は私は丸山はすごく解説がうまいのを知っている 雑談は別にして、指し手の説明が非常にわかりやすく、安定感抜群の解説をしてくれる もう、プロ棋士の中でも指折りと思えるぐらいにうまいのだ しかし、めったに解説者になってくれない・・・(^^; 雑談をしない、というのもプラスに働いていて、最初から観ているほうが丸山には雑談を期待しないのだ(笑)
あ、そうだ ここで丸山がなぜ横歩取り△8五飛を採用しなくなったのか、名人まで取った原動力の戦法から手を引いて、なぜ一手損角換わりに移行したのか、私がTVで丸山から聞いた、とっておきのエピソードを紹介したい
丸山がTV将棋で横歩取り△8五飛の将棋を解説していて、接戦で後手側が負けになったときのこと 
丸山「この戦法は、後手が1歩足りなくなるんですよ」
これがズバリ、丸山が△8五飛から撤退した理由だろう、と私は思っている 横歩取り△8五飛は、お互いが手を尽くせば、後手側が1歩足りなくなって負ける、そういうイメージが丸山の中で出来上がったから、丸山はもう△8五飛を使わなくなったのだ 私はそう解釈した 超スペシャリストの丸山が言うと、すごく説得力があった ただ、今はまた△8四飛+△5二玉型とかが出てきているから、それはどうなのかは知らないけどね 誰か、直接、丸山に「△8四飛+△5二玉の後手側のイメージは?」と聞いて欲しい(^^;
 
さて、対局のほうだ 早々に角交換から、馬を作りあう展開になった 松尾は隅っこの香を取って駒得だけど、香を取った馬が遊んでいる 松尾は自陣も囲いが組む途中で、全体の駒の働きも中途半端 
一方の丸山は美濃囲いだし、非常にきれいな陣形を作り上げている 
タカミチは、形勢判断を悩んでいる まあ、難しい戦いというところか

タカミチ「派手な戦いになるかと思ったら、すごくゆっくりしたペースになりましたね」
まだまだこれからか・・・ と思っていたときだった 丸山が、金をスッと横に寄せた ん? 何だ、これは?
タカミチ「イヤな雰囲気がしますね 狙ってますね これは・・・ これは、松尾はどうするんでしょう」
え、何? ここから丸山はじっくり穴熊に組むのを狙ってるってこと? 
・・・って、違う!! そんなヌルイ狙いじゃない!! これは、丸山は飛車を下段に引いて、松尾の馬を殺す狙いか!! 飛車を引けるようにした金寄りか!! 馬が死ぬ!? あ、あわわわ

ピタッと手が止まり、考慮時間に入った松尾 どんどん時間を使っていくではないか
タカミチ「丸山としては、角交換を臨んだときから、これくらいのことを考えていた可能性がある」
うへえー、そ、そうか そうだな、丸山ならそれくらい狙いかねない! 丸山はそういうタイプだ(笑)

まだ指さない松尾、こりゃ、本格的に困ったか 馬の1手詰めがとにかく受けづらい 馬が「詰めろ」になってから考えているのだから、もう松尾の想定外の事態ということは明らかだ 
タカミチ「自分がこの局面で松尾のほうを持っていたら、内心ではちょっと泣いてますね どうしてこうなったかと(^^; 中飛車で穴熊にガッチリ囲って、という構想とはかけ離れてしまった 馬も取られそう」

松尾は考慮時間を連続5回も使う大長考で、ようやく手を指したが、事態は良くなっていないようだ 
タカミチ「松尾は何をやったらいいんでしょう・・・ 気の早い人だったら投了もあったかなーというくらいの局面だったんですけどね そういう判断をしちゃいます」
ええー、タカミチ先生、投了はいくらなんでも、早いでしょう? いや、気持ちは分かります、ホント、それは分かります だって、こんなはずではなかった・・・と思いますよね でも先手を松尾に代わってコンピュータにしたら、ここから粘り倒すと思うけどな(^^;

松尾は、結局、馬を捨てた 桂香と角の2枚換えだ しかし、2枚換えと言っても、振り飛車の「要らないほう」の桂香がさばけて、丸山、絶好調だ そして、考慮時間の残りも、松尾▲0回vs丸山△10回になっちゃった うわー これは厳しい

そして、ここからは丸山ワールドが炸裂だった 丸山と言えば、そう、激辛流の総帥と言うべき存在だ それを全国の視聴者に見せ付ける指しまわしとなった
タカミチ「ぼんやりした角成りで、何を狙っているのか分かりにくい、こういうところが丸山らしい」
タカミチ「丸山は何が一番安全かと考えて指している」
タカミチ「丸山陣は、鉄壁の状態ですからねー」
タカミチ「丸山は振り飛車も強い」
タカミチ「松尾は順位戦B1、竜王戦も1組(来期は2組)、めちゃくちゃ強いんですよね その松尾を相手にこれだけ快勝しちゃうって、あんまり見たことないですけどねー」
タカミチ「松尾がどうこう言うより、丸山の戦術的な、戦い方のうまさですね」

圧倒的な差がつき、100手で丸山の勝ち 丸山の美濃囲い、金銀4枚が丸々残ったまんまで手付かずだった

丸山の勝ち方、それは相手が手がないことを見越して自分だけ有利な手を指してじっと待ち、相手が無理に動いてきたところを一気に怒涛の寄せを決める、という、まさに獲物を捕らえるカマキリのような「狩り」の作業だった これが丸山将棋の真髄、お、恐ろしい・・・(^^; 
 
終局直後、松尾「いやー ちょっとひどかったですねー そうか、金寄り(から飛車引きで馬が死ぬこと)が見えてなかったですね ひどかったですね そうか」

タカミチ「丸山の戦い方のうまさがホントに光りましたね これから振り飛車党になったほうがいいんじゃないかというくらいに、うまい指し方をしましたね」

感想戦では、丸山が序盤の変化で誰も気付かない意外な手順を指摘してくれたり、松尾の側に苦しいながらも強引に馬を助ける術を繰り出して勝負したらどうだったか、が話し合われていて、とても面白かった 
馬が狙われて大ピンチ、だったんだけど、実際は最善でがんばるとまだ大変だったんだね でも、タカミチが解説していたように、人間は構想が大きく破綻すると「投了」したくなりがち・・・(^^; コンピュータにはそれがないからなあ
コンピュータは、自分側が形勢が悪いと自覚する能力はあるけど、悪くても投了しようと考えることがなく、悪くなる度合いが一番低い局面を選んできて、延々粘りやがる・・・ うーむ(^^;  

丸山、前期NHK杯準優勝の実力をまざまざと見せつけ、松尾に圧勝、という一局だった 丸山に負かされたときって、なんか・・・ 人間に倒された、というより、人間以外のわけのわからない生物に食われた、そんな感じ・・・ 
そう言えば、昔、先崎さんが丸山を評して、「エイリアン」と言っていたのを思い出した 「エイリアン丸山」の恐ろしさを、存分に味わった一局だった 食われた松尾に対して、合掌だ ナームー