畠山鎮 七段vs熊坂学 五段 NHK杯 2回戦
解説 中川大輔 八段

お、今日はハタチンとクマーか クマー、1回戦の香川女流との戦い、本当に見事だったよ 今回も力を見せるか? そして解説は中川さんか、やったあ、私は中川さんが好きだ(^^; 

ハタチンは1989年四段、竜王戦2組、B1 1回戦で佐藤慎一に勝ち 17回目の本戦出場
佐藤慎一との一局は、相矢倉でわずかなスキを見逃さず、佐藤慎一にほぼ何もさせずに完勝だった

クマーは2002年四段、竜王戦5組、フリークラス NHK杯は初出場
1回戦で香川女流に勝ち そのときの解説者の中村修さん(香川女流の師匠)は、終盤で際どくなったときにクマーの応援をしたのには爆笑した(^^; 中村「取れるか、取れるか、熊坂ー!!」

中川「ハタチンは攻め将棋で強烈なパンチを繰り出す 私も何度ももらいました 『鎮(まもる)は攻める』と言われています 最先端の定跡に精通している クマーは攻守にバランスが取れた将棋 居飛車、振り飛車、両方指す 最先端の形ではなく、自分の力が発揮できる形の作戦を練っていると思います ハタチンが攻めて、クマーが終盤で体(たい)を入れ替える感じの展開になるだろう」

事前のインタビュー
ハタチン「熊坂五段は1回戦の将棋でも非常にしぶとく、手が見えている印象でした 奨励会時代から非常に早指しの手の見え方が良くて熊坂さんの将棋が始まると、東京の控え室では何人かで囲んで、みんなで盛り上がって観ていたように思います 私も年齢的には早指しがキツイといわれる年齢ですけど(45歳)、このNHK杯は出場するのも楽しみですし、1回戦も力以上のものが出せたと思いますので、今日も実力以上のものを出そうと思っております」

クマー「畠山鎮七段は関西棋士の仲でもバリバリの攻め将棋 ハードパンチをうまくかわすことができるか、と考えております 最近少し調子がいいので、駒を前に前にと思って強く指したいと思います」

聞いていた中川「ハタチンは謙遜(けんそん)されてますね ハタチンは早指しも得意で、手もよく見えると思いますよ クマーは最近好調で、各棋戦でよく白星を重ねています ハードパンチだけはもらわないほうがいいかもしれません(笑)」

さて、先手ハタチンで、▲居飛車vs△角交換四間飛車になった 流行の戦型だ
ここで、衝撃的な発言が中川から出た
清水「最近、熊坂さんはこの戦型をよく指されているようなんですが」
中川「あ、そうですか」

えええー、「あ、そうですか」って何? 解説者なのに、対局者が最近どんな戦型を指しているかを知らないの? 下調べを全然してきてない、対局者の最近の棋譜を全然見てきてないってことだ そんなのあるか?   
あまり知られていないことだが、プロ棋士と観戦記者などの関係者だけがアクセスできる棋譜のデータベースがあるのだ それを使えば、プロ棋士の誰が最近はどんな戦型を指しているかなんて、すぐ調べられるはずなのだ 戦型なんて、序盤だけパパッと見れば済む話ではないか 解説の仕事って、収録日の当日に決まるものではないだろう 下調べする時間があるだろう それなのに・・・ うーん・・・

気を取り直して、続きだ(^^; 
中川「このクマーの作戦(角交換四間飛車)は、後手番のときに使い勝手がいいんですよ 先手、後手に関係なく指せます いつでもね」 
うむ、わかりやすい解説だ
中川「位(くらい)を取るということは、自分の陣地を広くして、相手の進展性を奪うんです」
うむうむ、わかりやすい 中川さん、解説自体はとてもいい 

清水「クマーと中川さんは仙台の同郷ということなんですね」
中川「あ、そうです 私が奨励会の幹事をやっているときに、クマーがちょうど四段になったんですよ 三段リーグが混戦ぎみでそのワンチャンスをつかみましたね そういった意味ではクマーは勝負強いです」

気になったので調べてみると、クマーは平成13年からの後期三段リーグで13勝5敗の成績で昇段を決めている この成績なら例年並みで順当と思うが、最終戦で順位1枚上の相手が負けたために、クマーがギリギリ昇段をゲットしている その順位1枚上の人は高野悟志三段(当時)、大平が最終戦で高野に勝っている 大平はそのとき16勝2敗のダントツの成績で昇段、大平は最終戦はすでに消化試合だったのに、全力で戦った、ということだ クマーは大平に恩がある、ということか?(^^;  高野三段はその後、年齢制限で退会、結局プロになれなかった・・・ やはり三段リーグは厳しいな・・・ (順位戦データベースという個人様が管理している神サイトがあり、そこで調べられるのです)

さて、まだ戦いが始まっていないが、中川さんと清水さん、色々と雑談してくれるので、楽しい
中川「この戦法は終盤が激しくなります 寄せのメドを立てておかないとね 戦法の質っていうのを見極めないとね 角換わり腰掛け銀が激しくなるのと同じこと」
うむ、戦法の質を見極める、これは非常~に大事だと思う ノーマル振り飛車の美濃囲いが居飛穴に負け続けたのだって、要するに戦法の質を見極める目がなかった、ということだろうし、△8五飛が出始めた頃は、先手側は全く戦法の質を見極められずにボロボロに負けていった  

角を持ち合い、ハタチンの▲居飛車+銀冠vsクマーの△向かい飛車vs美濃だ
まだもう少し駒組みが続くだろう、と思って観ていたところ、突然ハタチンが仕掛けていった 美濃囲いのコビンを攻める、積極果敢な攻撃の一手! 
中川「あ いきなり行った こりゃもう、(この手には)畠山じるしがついてます ハンコがついてますよ 畠山、ってね これは私には指せない」

局面が進み、持ち駒の角を手放して1歩得したハタチンがいいか、角を温存しているクマーがいいか、形勢は微妙のようだ 
中川「クマーの金銀が乱れたと見るか、厚くなったと見るか」

ここでまた雑談があった ぜひ書き残しておきたいので、書いておく(^^;
中川「私と畠山さん、東西の奨励会の幹事をやっていたんですが、時期が同じで、よく電話で幹事の方針みたいなものを話し合ったことがありました 畠山さんは奨励会員に厳しくてね それはいいことなんですよ 棋士になるまで、色んなことを学ばなくちゃならない 将棋以外でね そういう事を教えてくれる先輩ていうのは少ないんでね 幹事がある程度、厳しくやらないとね 怖い人がいると、人間、謙虚になっていきますのでね」
清水「関西の若手の活躍されている方にお話を伺いますと、畠山さんの厳しさに感謝されている方が多くお話聞きますね」
中川「今、関西で活躍している若手は、たいがい畠山さんにお世話になっている人たちだと思いますね」

これはとてもいい話だと思った ハタチン、トーナメントプロとしてはさほど目立った結果は出していないが、今の関西の若手たちの成長がハタチンのおかげだとしたら、素晴らしい功績だ ここ10年くらいで、関西の雰囲気が変わったのは有名な話だ
(ちなみに、畠山鎮をウィキペディアで調べると、糸谷を指導した話が書いてあります)

盤上、まだ本格的な戦いになる様子がない、と思っていたら、クマーに好手が出た 軽く歩を突き出す、柔軟な着想! しかもノータイムだ
中川「うまい手、軽手、なるほど! たしかにクマーは自分で好調と思ってるだけあります」
清水「クマーの好きな駒は『歩』とおっしゃってまして、そのものの一手ですね」
おおー、清水さん、そんな情報まで調べてきていらっしゃる、実にいいね!

手が進み、クマーにまた感心する一手が出た 当然の一手と思われる手をすぐ指さず、しっかり考えてもっといい手を見つけ出したようだ
中川「戦前のインタビューで、『駒を前に前に』って言っていたのが表れてますね 好調だと、こういう細かい応手が見えてくるんですよ」 
 
ハタチン、追い詰められたか 有効な手がなさそう・・・ 
ハタチンは銀を打ったが、それはさっき中川に「ここに銀を使うのは無駄使い」と断言された手ではないか 
中川「これはクマーが優勢 打ちたくない銀だからね」

中川が「朝メシ抜いてもこの一手」という手をクマーはもちろん逃さず、差がついた様子・・・ これはクマーの会心譜か?

が、しかし、ハタチンもあきらめない 自らの馬の利きを止めてしまうところに桂を打つという、実に考えにくい手だ
中川「勝負手、強い手だな」
クマーも気合いよく対応 
中川「善悪はわからないけど、強い手ですよ」
ハタチンはさらに勝負手を続けた 一見、ぼんやりして狙いが一つしかない角打ち、しかしこれが打たれてみると、なんだか厳しそう・・・?  んー? ええー? これ、厳しいのか?
中川「しぶとい手ですねー どっちが勝つかわからないねー」

おおお、なんか、すごいいい内容になってる、観てて面白い 好勝負!
そして、クマーが金をぐいっと出たところで、盤上のボルテージは最高潮に達した
中川「す・ご・い手だね~ あ、こう! あこれ、何かわかんないけど、いい手ですね 何だかわかんないけどいい手(笑)」
見ごたえ充分、これは楽しい! 両者全く引かないとはこのことだ 

一手違いの寄せ合い、いよいよ最後の勝負
クマーが攻防手を放ったと中川が解説した直後だった ハタチンは王手王手で迫るのかと思ったら、クマーの玉頭に馬を作ってじっと手を渡した!
中川「下駄を預けましたね なるほど いい手だね ハタチンが残してるかもしれない」

おおー、確かに、これは・・・ ハタチン、自玉の安全度を見切り、相手を受けなしに追い込む、絶好の判断か!! 
中川「クマーの金が出たのがどうだったかな いい手に見えたんだけどね~ それより、ハタチンの迫り方がうまかったですね」 
いや、これはホント、ハタチンの寄せの構図の描き方、これがうまかったとしか言いようがない ハタチン、つ、強い・・・
93手でハタチンの勝ちとなった 

局後、クマー「いやー ちょっと前に行き過ぎちゃいましたねー」

中川「クマーが非常にうまく指していて、優勢だったと思うんですけど、ハタチンの意表をつく(そっぽの)銀打ちでプレッシャーをかけたのが巧みでしたね あれで優劣不明な終盤に持ち込みましたんでね 最後、クマーにはもうちょっと手段があったかもしれません」

これ、本局はすごく面白かった、良かった! クマーは負けたけど、途中、いっぱい良い手を見せてくれた 好調なのが随所に伝わってきた 「前に前に」っていう積極性が最後は裏目に出たかっこうだが、これはもう仕方ない クマー、よくやった

そして、そんな調子の良いクマーの指しまわしに、見事に耐えて逆転勝ちを決めたハタチン、強かった! さすがB1棋士! あきらめないで見えづらい勝負手をよくぞ連発したものだ 最後にクマーの玉頭に馬を作って手を渡した決め手、あれはいつから読み筋だったのか・・・ 全くすごい これは偶然の勝ちではない、ハタチンの構想力のたまものだ 本当に感心した クマーは玉頭が薄かったんだね クマーの頭が薄いという弱点を見事に突いたのだから、さすがだ!!

感想戦でも、ハタチンは「中川流の金上がりで、ガッ!と」としゃべりながらその手を示してくれて、マニアをニヤリとさせてくれた

今週は雑談、そして将棋の内容、共に充実していて大満足だ
解説者が雑談で楽しませ、丁寧に説明し、対局者が解説者の予想を上回る手をやって見せてくれる、これは理想的なあり方だと思う 
クマー、負けたけど、良かったよ! そしてハタチン、会心の逆転劇、お見事!!

でも一つだけ、これから出てくる解説者のみなさま、対局者の最近の棋譜ぐらい、調べてきてください(^^;
一方、清水さんの事前の情報収集能力、努力はとても素晴らしいですね! それに関してはナイスです

来週は羽生vs森内、これは見逃せない!!