2015.06.18 常識外の一手
常識外の一手
谷川浩司著 新潮新書 700円+税 2015年6月20日初版 評価B
コンセプト<タニーの会長職の大変さがわかる本>

私は阪田大吉さんのブログで、この本の発売を知りました
タニーの「まだまだ一線で他の棋士たちと争っていくつもりですが、体力をはじめとして、年齢による衰えというのはどうしてもあります。」(P7)という告白から始まる本です
しかし本全体を読むと、B1から落ちたら引退か、と思っていた私の予測はどうやら、はずれている感じです
50代には50代の現役のやり方があるはず、そして60代の将棋、というのが最後のほうの文に出てきます それがタニーの生き方なんですね(現在53歳)

P23に図面があるのですが、後手側の2九の香が生の香のままです 成香の間違いでしょうか? これではダメですね ちなみにこの本には図面はこれを含めて2つしか出てきません

電王戦に関しては、2005年に米長会長がソフトと対局禁止令を出した頃から、時系列で載っています
私はもうほぼ知っていることばかりなのですけど、読んでいてやはりドキドキしますね

第3回とFINALで問題になったソフトの「事前貸し出し」については、タニーはこう書いています
「事前に棋士が研究できるのでは、棋士側が一方的に有利に見えるかもしれません。しかし一方で、そもそもプロ棋士は普段から対戦相手の棋士の過去の対戦棋譜を研究して対局に臨んでいるのだから、将棋では当たり前のことだという見方もありました。」(P59)

これ、本当に「将棋では当たり前のこと」ですか? 私のようなアマチュア棋士では、当たり前のことではないですよ? ネットで指すときは相手のことなんか知りませんし、大会に参加しても、事前に相手のことは全く知らない場合なんて、普通です
プロ棋士って、対戦相手が決まったあとに、自宅にその相手を直接呼んで、実戦練習に付き合ってもらうのが当たり前なんですか?

電王戦に関するところは、面白い場面が多いです
第3回のことで、「菅井君には、電王戦後から一週間ほどのちに行き会ったので、『負けちゃダメじゃないか』と冗談交じりに叱ったのですが、『すみません』という返事も明るく、負けを引きずるようなところがなくて安心させられました。」(P67)
こういうエピソードは心温まるので、いいですね

タニーがコンピュータをどう捕らえているか、が書かれているところがあります
「身びいきとのように思われると残念ですが、もしプロ棋士がコンピュータに勝つことだけに集中すれば、まだまだ人間であるプロ棋士が勝てると考えているのです。」(P81)
私は、それは身びいきと思いますが、どう思うかは人それぞれなので、別にいいです(^^; もう第1期電王戦の開催も決まりましたしね

この本のキモは、連盟の会長職の大変さ、これです 米長前会長からバトンタッチする場面は、ちょっとウルッときます
そしてもし立ち読みする機会があったら、P119を開くことをおススメします 
タニーの2013年10月の、一ヶ月のスケシュールが載っているのです
・・・うぎゃー、こんなスケジュール、こなしたくねえー(笑)
タニー本人ですら、「我ながらなかなか凄まじい日々です。」と書いています(^^;

何処にでも顔を出して、挨拶やらなんやらしないといけないんですもんね 代わりの人じゃダメなんですもんね
「私自身の連盟会長の務めも、どうもかなりの長期戦になりそうです。(中略)まだタイトルを活発に奪い合っている次の世代を同じ目に合わせるわけにもいきません。」(P191) こう書かれてありますので、当分はタニー政権が続くのでしょう 本当にご苦労様です

タッグマッチの白紙について、私としてはこの機会に何か一言でもいいから書いて欲しかったのですが、全く書いてません
高額賞金のタッグマッチは、いったんは「2016年から開始します」と大々的に発表していたのですからね 白紙化の経緯について触れて欲しかったです この一件は、貴重な経験に変えて今後につなげていくべき、大事なことだったはずです 高額賞金のタッグマッチこそ、悪い意味で「常識外の一手」ではなかったですか? 
そして今度のドワンゴの新棋戦について、何も書かれてません これも残念です

この本は、全五章のうち、第三章までは電王戦のことや、会長職の苦労話が読めて期待以上に面白かったのですが、それ以降、第四章はタニーのエリート街道を歩いた自伝、第五章はどこかで読んだような大山、升田、羽生らに対する評論になっていて、盛り下がってしまってます 
評価はBとさせてもらいます 読みやすい本で、そこはグッドでした タニーの、「会長職もがんばるし、まだまだ現役続行」宣言が聞けた本でした