摩訶不思議な棋士の脳
先崎学著 日本将棋連盟発行 1540円+税 2015年10月初版
評価 B  コンセプト<週刊文春に書いたエッセーから70編を抽出>

先ちゃんのエッセーだ
本の帯に、「プロ棋士・先崎九段が描く痛快将棋エッセイ 面白すぎる70編を収録」と書いてある ・・・が、しかし、これが問題だった
「面白すぎる」なんて書いてはいけなかった 
読む前から、読者にそんなにハードルを上げてどうするのだ
「このご飯、美味しすぎるから、食べてみ」とか、「この映画、面白すぎるから観てみ」
と言われて、たいてい、ろくなことはないのだ 
実際、この本、そこまで面白くはないし(^^;
昔のエッセーのほうが面白かった、というのが私の間違いのない本音だ

先ちゃんの場合、本職の将棋では羽生世代と比べられ、著書は昔の頃の先ちゃんの本と比べられ、大変であろう・・・
「一葉の写真」とか、「世界は右に回る」とか、あの頃の先ちゃんの文章には、ほとばしる熱いパトス(情念)があったもんねえ
今は、まあ丸くなったよ、しょうがないね

48ページに、先ちゃんの本音が書かれているので、抜粋したい
「自分もこれから大変だな、と思う。先輩はしぶといのばかり、後輩はいきのいいのばかり、同世代はいうまでもなく強いのばかり。」
うん、そのとおりだね(^^; よくB1に昇級できたものだと思う この本では、どうにかB2で降級点を逃れるべく戦う先ちゃんが書かれてあるので、昇級での私の驚きもひとしおだ

私は毎年、NHK杯か銀河戦で先ちゃんが出場するのを待っているのだが、最近、いっこうに予選を勝ち抜いてこないので、TVの前で応援したくても、やりようがなかった (来年は先ちゃんがNHKで観れるね)

さて、もう一つ、この本には問題がある 
2007年~2012年の期間に連載されたとのことだが、各文章が具体的にいつ書かれたものなのか、明らかにしてくれていないのだ 週刊文春の何年の何月号に載りました、と書いてくれていない
これがかなり痛い! 誰と誰がタイトル戦で戦っていて~とか、B2順位戦で戦っていると~とか、囲碁の井山さんと室田女流が結婚して~とか出てくるのだが、これは、結局いつの話?となってしまうのだ
時事ネタが非常に多いのに、何年の話なのか、わからなくしてあるのは、まったくバカバカしいと言わざるを得ない

中には「今年に入ってまだ一度も外で酒を飲んでいない。」とあるが、いったい何月に書いたものか、全然わからず、意味がなくなっている箇所まである 
雑誌から抜き出してあるわけで、編集者は調べればわかるだろうから、なんで年月をしっかり書いてくれなかったのか、全く謎である まさに「魔訶不思議な編集者の脳」というところだ

色々書いたが、それなりに面白かったことは間違いない 
注釈で、今の先ちゃんの視点が書かれてあるのはGood
3話に1話ぐらいは楽しく読めた

先ちゃん、けっこう飲んでるな~、と思った タイトル戦の仕事で旅館で飲んだり、なんたらを祝う会で飲んだり、イベントの打ち上げで飲んだり、誰それの結婚式で飲んだり・・・もちろん対局に負けた後にも飲んでる(^^; 

電王戦についても、「あから2010」と「ボンクラーズ」のことがちょこっと書いてあるだけだった
電王戦で何を考えたのか、もっと知りたいが、2012年で連載が終わってるからしょうがないなあ

私が大笑いした所を書き出してみようかと思って、紙に書いたら、大笑いしたのは前半の2か所だけだったという(笑)
毎日、色んな人と出会って酒を飲んでそして将棋を指して、と、プロ棋界は平和でいいね、というエッセー本になっている
まあ、この週刊文春の連載は、わざと「平和な日常」をメインテーマにしてあったのかもしれない

そして先ちゃんは、この本のラストでこう書いている
「どうも最近、将棋界の語り部的存在になりつつある気がする。」
うん、先ちゃんはもうそれでいいよ、将棋も文章も、もう若い頃のようなあふれる才気を期待してはいけないのだろう
ほどほどに将棋が強く、ほどほどに文章が面白い存在、それが先ちゃんだ
河口老師が亡き今、あとを継いで、ファンのためにプロ棋界の語り部としての役割を全うしてほしい
この本のタイトルは「摩訶不思議な棋士の脳」だけど、本を読み終えると先ちゃんは全くの常識人に思えてくるよ いいことだ、うんうん

私は週刊文春を読んでいなかったので、こういう本はありがたい
なぜ連載終了から3年も経って? もっと早くできなかったのか、とも思う 
今は週刊現代で書いているとのことだけど、なるべく早くに単行本化して出してほしいと思う