先崎学&中村太地 この名局を見よ!21世紀編 
先崎学・中村太地著 
マイナビ将棋BOOKS 1540円+税 2018年11月30日 初版第1刷発行
評価 A  難度★★☆~  コンセプト<2人が名局を14局選んでポイントを解説>

まず、前作の「20世紀編」を私は買っていない。
この本を読むにあたり、私は盤と駒を用意し、「さあ、久々に棋譜並べをするぞ」と気合を入れていた。
しかし、読み進めるにしたがって、「別に盤駒は必要ないわ」となっていった。

この本の一局ずつの取り上げ方は、一番見せたいテーマ図を冒頭に持ってきていて、なぜその一局が選ばれたのか、読者にわかりやすくなっている。
符号に対して図面の割合も多い。普段「将棋世界」を読んでいる人なら、「図が多いのでありがたい本だな」と思えるだろう。
そのため私は、わざわざリアル盤駒を出して並べようという気が全然起きなかった。
ありがたいといえばありがたいが、拍子抜けといえば拍子抜け。
この本は棋譜並べ用の棋譜集ではなく、読み物だ。(総譜も章末には載ってるが)

冒頭に、次の一手を考えさせる問題図(そこがテーマ)がある。このやり方はとてもいい。読者が自分の頭で考える機会も必要だ。
先崎と中村太地のコンビネーションは安定している。感情を出しボヤく先ちゃんに太地が理詰めでフォロー。グッド。

この本の欠点としては、図面と次の図面が符号ではつながっていない箇所がある。(つまり読者は、突き放される)
そして解説がどの図面からの話をしているのかが、わかりづらい箇所も少々あった。

本の難度だが、5手詰ハンドブックをがんばれば解けるくらいでないと、この本を理解できるかが不安だ。
ただいつも思うが、私は24の初段付近であり、私にはこの本は楽しく読めた、という他ない。
低級者が理解できるかは、実際に低級の人が読んでレビューするしかないと思う。

14局の中で私が1番面白かったのが、▲松尾vs△藤井猛の一局。(2014年7月17日・順位戦B1)
これは藤井猛の「居飛車版・藤井システム」と呼びたくなるような指し回しが炸裂。
先崎と太地、よくぞこれを取り上げてくれたと、拍手ものだ。パチパチ。
2番目は中田功の三間飛車。▲elmo対△Ponanzaも良かった。

先崎さんは「21世紀編というタイトルをつけるということは、もう先はないようである。俺たちの旅はまだはじまったばかりだ!といわせてもらって、シリーズ化を秘かに画策したい」と書いておられる。
棋譜というのは、料理で言えば「食材」だと思う。食材をどう料理するかは、先崎さんのような語り手たる「シェフ」にかかっている。
良質な棋譜はもう山のようにあり、今も毎日量産されている状態だ。
先崎さん、これは美味しい宝の山を見つけたかもしれん。          
出版社・連盟・対局者・著者・読者、全員がWin-Winの関係でシリーズ化なるか?