弟子・藤井聡太の学び方 
杉本昌隆著 760円+税 PHP文庫 2019年4月9日 第1刷
評価 S コンセプト<杉本さんは師匠として藤井聡太にどう接したか>

奥付に「本書は2018年2月にPHP研究所より刊行された作品に、加筆・修正したものです」とあります。

本書は図面は一切なし。「杉本さんによる、師匠はどうあるべきか論」になっています。
これが実に素晴らしいと思えました。
P42「これまで先人たちが培ってきた勝率のいい指し方や、型にはまった手筋を教えても、(藤井には)百害あって一利なしだと思ったのです。」
杉本さんのスタイルは、この一文に凝縮されています。とにかく、「よけいな手だしはしない」これが杉本師匠の藤井に対するモットー。
とりわけ技術的なことは教えない。これが随所に書かれていて、気持ちいいほど。
私はこの考えに大賛成です。こと将棋においては、凡人が天才に技術的なことを指導すべきではないと思います。

杉本さんの半生も書かれていて、面白いです。板谷進師匠との昔の思い出話や、振り飛車党に転向した話。
そして藤井以外の、辞めていった弟子の話も実に興味深く読みました。

師匠はどうあるべきか論では、まず弟子がどんな人材なのか見抜くことが必要で、それに合わせてどういうアドバイスをするべきかが変わってくる、と書いてあります。これが当然の意見に思えて、なかなかできない。
一般的に、師匠やコーチや先生が持論を頭ごなしに、すべての弟子や生徒に押し付ける。そうなってしまいがちだからです。

杉本さんは技術的なことを教えないかわりに、弟子が将棋に集中できるように環境つくりに気を使っておられ、模範になる師匠だと思いました。「師匠である自分が真摯に将棋に打ち込む姿を見せることが、弟子に一番伝わる指導法となる」など。

本書で一番感動した箇所を抜き出しておきます。プロ棋士になるために奨励会に入り人生をかける意味はあるか、ということころです。
P208「納得づくで挑戦し、たとえば大学進学を機にプロになることをあきらめる。でも挑戦しない子よりも、はるかにみんな納得して奨励会をやめていきます。(中略)大人の側はどうしても、プロの道を目指してプロになれない場合、何年かを無駄にしたと考えがちです。でも人生の一時期を自分の夢に捧げるのは、はたして無駄でしょうか。テレビを見る時間や友達と遊ぶ時間はなくなるかもしれません。でも何かを犠牲にすることを覚悟した上でなら、挑む価値のある世界だと私は信じています。」

ここは一番私の琴線に触れました。でもただ、奨励会時代が5年までくらいならこの意見でもいいんですけど、10年以上かけてプロになれないとなると、それは厳しいと思いますが・・・。

一か所だけ、それは違うだろうというところがあります。
P258「将棋を指すようになると、物事を論理的に考えるようになるので、算数・数学が得意になります。」
という箇所。これはそんな言いきれるような話ではないので、信じられません。
私は算数・数学がめちゃ苦手ですから(笑) 将棋は大好きでも算数が苦手というパターンも絶対あるはずです(^^;

全体にとても面白くて一気に読みました。いろいろな藤井聡太の関連本が出ていますが、これは特におすすめです。