時空棋士 
新井政彦著 マイナビ出版 2020年1月31日初版第1刷発行
Amazonで紙版1628円 Kindle版1465円
評価 A
コンセプト<奨励会三段の少年が幕末にタイムスリップ>

面白い。実にワクワクさせられた。読みやすく、紙版で全328ページであるが、どんどん読み進められる。(改行による空白がかなり多いのという事情もあるが) 私は読んでいて、えっ、もうこんなに読んじゃったの? あとちょっとしかページが残ってないじゃん!ぐあー、読み終わりたくない!という事態になった。

ストーリーに関してはここでは触れないとして、欠点が2つ。
私は紙版を買ったのだが、漢字に「ふりがな」がない。これがけっこう痛い。江戸時代で文化が現代と違うので、なじみのない難しい単語が随所に出て来るのだが、ことごとくふりがながない。「月代」とか「行燈」とか普通、読めるか?(さかやき、あんどん)
とくに「簪」という小物が重要になってくるのだが、これが私には読めなくて困った。(正解は「かんざし」)

もうひとつの欠点、それは図面と符号がふんだんに出て来て、それで対局の場面の話が進んでいく、という形式なのだ。
なんでこんなふうにしちゃったのか。局面は難解で、手数にして一気に20手ぐらいどんどん進められていく。
まるで将棋世界の観戦記のような状態。いちおう24の有段者の私ですら、理解するのをあきらめる。
こんなの、将棋ファンで高段者じゃない人は突き放されてしまう。なんでこの方式を採用してしまったのか。
図面と符号を無視して、文章で表現しているところを追っていけば、どうにかド素人でもストーリーを理解はできるとは思うが。
この作者の文章力をもってすれば、文章だけで対局シーンを書くことは充分に出来たはずなのに。
万人向けにしておかないなんて、じつにもったいない。残念なことをしたと私は思う。

でも、読んでいるときのワクワク感は、他では得難いものがあった。面白かった。「現実には不可能な夢を、本の中で実現させてみせる」というフィクションの醍醐味が味わえる。作者の才能には敬意を表したい。