真剣師 小池重明 ゛新宿の殺し屋〝と呼ばれた将棋ギャンブラーの生涯
団鬼六著 イースト・プレス刊 1995年初版 より、
巻末に載っている小池氏の自戦記を書き出してみました 

小池重明氏の棋譜の中でも特に有名な、1982年の森けい二棋聖との三番勝負第三局です
(将棋ジャーナル平成三年四月号に掲載)

冒頭の文章は本文中の団氏のものです
棋譜のコメントはすべて小池氏のものです
ただし、終盤の「詰めろ」の変化は分岐として私がまとめました
分岐中の私の文は(カッコ)の中に書きました

なお、幻冬舎から出ているこの本の文庫版には、残念なことにこの自戦記が割愛されていますね

(前文略)
途中で腹が減ったので飯を喰おうとしたが飯代がなかった。
煙草を買うにも煙草代がなかった。
ましてその服装たるや、素足にサンダルばきである。

ただ、今回は一番手直り、角落ちで勝てば次に香落ち、香落ちに勝てば次に平手、
一局勝ち進むごとに一万円、二万円、四万円とジャーナルから出る賞金は倍増しになっていく。
逆に負ければ飛車落ち、飛香落ちとなって五千円、そしてゼロになるという、いわば真剣師好みの賞金制になっていた。
勝てば金が入って飯も喰える───こういう状況下におかれると飢えた狼は本性が剥き出しになる。

───空腹を我慢して将棋会館に入ると、当日の立ち会い人であったジャーナルの編集長、
湯川博士さんが素足ではまずいと思ったのか、素早く靴下を買ってきてくれました。
おんぶにダッコだと甘えて煙草も買ってほしいとねだりました───


ファイル名:小池重明vs森けい二.kif
開始日時:1982.6.11
持ち時間:各60分 切れたら1分
表題:プロアマ指込三番勝負第三局
場所:将棋会館
先手:小池重明アマ名人(下手)
後手:森けい二棋聖(上手)

▲7六歩
*「指し込み三番勝負でスタートは角落ち。
*飛車落ちは勘弁してもらいたい、これが対局前の正直な思いだった。
△3四歩 ▲6六歩
*初戦の角落は大逆転勝ち、これで流れが変わり香落ちは快勝。
△8四歩 ▲7八銀
*そんな流れの中で迎えた平手番「勝ち負けにこだわらず一生懸命指そう」そんな私と、「まさか平手まで指し込まれるとは・・・・・・平手はどんなことがあっても絶対負けられない・・・・・・」
*この気分の差は大きい。
△6二銀 ▲6八飛 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉 ▲3八玉
△5四歩 ▲2八玉
*序盤ということもあり棋聖も私も早指しである。
△5三銀 ▲6七銀 △3三角 ▲3八銀
*時間を使うことは気合負けにつながる。そんな雰囲気の序盤戦であった。
△2二玉 ▲9六歩 △1二香 ▲5六銀
*私の▲5六銀は棋聖の△4四歩を強要したもので、ここ△4四銀は▲4六歩△5五歩に▲4五銀のブツケがあり上手忙しい将棋となる。△4四歩と突けば必然的に△4三金の形となり、3一、3二と金が二枚の形より堅さで劣る。これが▲5六銀の狙いである。
△4四歩 ▲5八金左 △1一玉 ▲4六歩 △5二金右 ▲3六歩
△2二銀 ▲1六歩 △3一金 ▲1五歩
*穴熊でアマ名人になった私だが、穴熊退治も大好きである。自分で多用しているだけに長所短所がよくわかっているからだ。
△7四歩 ▲3七桂 △4三金 ▲2六歩 △8五歩 ▲7七角
△7二飛
*上手△7二飛と角頭に狙いをつけてきた。ここで▲6七銀と受けるのは気合い負けだと思い、銀冠を目指した。
▲2七銀 △7五歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲3八金
*どこかで▲1四歩~▲1三歩~▲2五桂の端攻めが狙いである。
△5一角 ▲4七金左 △9四歩 ▲6七銀 △7二飛 ▲7八飛
△6四銀
*7筋は焦土作戦でよいと思ったのだが、△6四銀をみて弱気な虫が目を覚ました。
▲7六歩
*▲7六歩とあやまった私を見て「あやまってくれるの・・・・・・それならね」とほほえんだ。
△7三角 ▲5六歩 △8二飛 ▲5八飛 △5三銀 ▲6五歩
△6二飛
*局面は中盤の入り口である。上手から△6四歩が見えているだけにゆっくりしていられない。
▲5五歩  △同 角
*▲5五歩は、△同歩なら▲6六銀と手順に捌くつもりだったが、それをはずす△同角だった。
▲同 角 △同 歩 ▲6四歩
*▲6四歩が自慢の一手で、△同歩には▲5五飛~▲8五飛で調子がよい。
△同 銀
*△同銀で▲5五飛がなくなったが、銀が守備か遠ざかる分だけ得だと思った。
▲2五桂
*▲2五桂の単騎跳ねが勝負手だ。
△8二飛
*△8二飛で△2四歩なら▲1三桂成△同銀に、▲6六銀と指すつもりだった。▲1四歩、桂を手にしての▲2三桂が狙いである。
*直線的な攻め▲1四歩は景気よくみえるが、△同銀▲同香△同香▲2三銀△1二香で局面がわかりやすく下手必敗の局面だろう。
*上手がどこかで△2二銀と引いたら、そこで▲1四歩と突く・・・・・・これがコツである。
▲6一角
*▲6一角は一局を賭けた勝負手。
△3二金 ▲6六銀 △6七角 ▲5九飛 △5六歩
*▲6六銀は遊び駒の活用で当然の指し手だが、△6七角から△5六歩が上手らしい指し回しだ。
▲7七桂 △8六歩 ▲同 歩
*△8六歩に▲同歩は普通論外の手だが、端を攻めるための一歩が欲しかった。
*▲8六同歩で▲6五銀も目につくが△8七歩成でダメだと思った。
△同 飛 ▲1四歩 △同 歩 ▲1三歩 △同 香 ▲同桂成
△同 桂 ▲1四香 △1二歩 ▲1九飛 △7六角成 ▲1八香
△2一桂 ▲1三香成
*▲1三香成では▲5六金と歩を補充するべきだった。
△同 歩 ▲1二歩 △同 玉 ▲2五桂 △1四香 ▲同 香
△同 歩 ▲1八香 △1三香 ▲同桂成 △同 銀 ▲1七香打
△2二玉
*△1四香、△2二玉と上手らしい軽い受けで、下手の重い攻めは空を切ったと思った。
▲1四香 △2四銀 ▲5六金
*▲5六金は辛いが、△6六馬とされては勝負どころがなくなる。
△1七歩 ▲同 香 △8八飛成 ▲6五歩 △5五歩 ▲1二香成
△3三玉 ▲6四歩
*▲6四歩と銀を入手して、前途にわずかな光がみえた。
△5六歩
*▲6三歩成が「詰めろ」、この形を目指したい、攻めが途切れたとき、それは負けを意味する。
▲2二銀
*▲2二銀、こう行くしかない。
△同 金 ▲同成香 △同 玉 ▲1二香成 △3三玉
*攻めている下手が華々しくみえるが、ちょっと足りないようだ。
▲6五桂
*▲6五桂では銀としたいが、詰めろではないので、△3七香でだめだろう。
△4二金打 ▲4三角成 △同 玉
*やむをえない▲4三角成に、△同玉が上手のミス。△同金としておけばなんてことなかった。
*楽観、そうとしか思えない。
▲6三歩成
*待望の▲6三歩成が実現した。
△4一桂 ▲5四歩
*そして▲5四歩でマワシをつかんだかにみえたが・・・・・・。
△5一香 ▲5三金 △同 香 ▲同歩成 △同 金 ▲同桂成
△同 桂
*秒読みになり、△3七銀~△4五桂打の詰めろが瞬時に見えた。
*(仮に次の手を▲6四金として、△3七銀以下の詰み手順を分岐しておきます)
▲5八歩
*▲5八歩。観戦記者の今福栄氏は「念力の歩打ち」と書いたが、受けるにはこれしかない。
△同 龍
*私の▲5八歩をみて、「フフ、やっぱりね」森棋聖の顔がユルンだ。そして指された手は、△5八同竜。これが敗着であった。
*正解は△6六馬で、これが詰めろになっている。
*下手▲6四金の詰めろぐらいだが、△3七銀▲同金△5八竜で手順が長いが詰みである。
*(△6六馬ならどうだったのか、△6六馬以下の変化を一手前に分岐しています)
▲4八金打
*▲4八金打。
*これで「勝った」そう思った。
△1八歩
*危ない筋がなくなったので寄せに専念すればよい。
▲5五香
*▲5五香が急所で、△1九歩成には▲5三香成~▲4三金で馬を取り、▲5八金と竜を取り勝ちだ。
△5四桂 ▲同 香 △同 玉 ▲6四金 △4三玉 ▲5三と
△3三玉 ▲5四金 △同 馬 ▲同 と △6七龍 ▲1八飛
△4一香 ▲2五桂 △3二玉 ▲2一成香 △1六歩 ▲同 飛
△1五歩 ▲3三角 △2一玉 ▲2四角成 △1六歩 ▲1三桂打
△3一玉 ▲4三桂
*形作りのつもりだった▲5八歩が波乱をおこした。
*序盤から苦しい闘いをしいられ終盤になってもずっと上手がリードしていた。
*負けを観念し▲5八歩と打った。
*それが逆転の引き金になるとは、勝負とは皮肉なものである。
*この将棋を生涯忘れることはないだろう。
*(投了図以下、△同香▲4二銀△2二玉▲3三桂成△1一玉▲1二歩以下詰み)
まで165手で先手の勝ち

変化:136手
△6六馬
*(これが詰めろになっている)
▲6四金 △3七銀 ▲同 金 △5八龍
*(3八に打つ合駒は何を打っても同じようなもので、△3九銀▲同飛△同馬▲同玉△1七角以下簡単に詰み)
▲4八香
*(この中合いが一番長い変化)
△3九銀
*(銀捨て、玉が逃げるのは簡単に詰み)
▲同 飛
*(▲同飛が一番長い変化)
△4八龍 ▲3八金打
*(▲3八金と引くのは△3七金以下の詰み)
△3九龍
*(▲1七玉は△1六香▲同銀△1八金以下の詰み)
▲同 金 △同 馬 ▲同 玉 △4八金 ▲同 玉 △5七角
▲4七玉 △4八飛 ▲5六玉 △5五香
*(中合いのため渡した香がある、もし仮に▲4八銀の中合いだったならここで△6七銀がある)
▲同 玉 △4五金 ▲同 歩 △同飛成
*(これで詰み、△6六馬としていれば上手の勝ちだった)

変化:135手
▲6四金
*(仮に詰めろをかけるとどうなるか)
△3七銀 ▲同 玉 △4五桂打 ▲同 歩 △同 桂
*(▲4六玉は、△3五角以下の詰み)
*(▲2八玉も、△3七金以下の詰み)
▲4六玉 △3五角 ▲同 歩 △同 銀 ▲5五玉 △5四金
▲同 金 △同 馬 ▲5六玉 △5八龍 ▲5七歩 △4六金
*(これで詰み)

変化:141手
▲2八玉 △3七金
*(▲1八玉は△2七金▲同玉△3八竜以下詰み)
▲1七玉 △1六歩
*(▲同銀は△2八角以下詰み)
▲同 玉 △1五歩 ▲1七玉 △2八角 ▲1八玉 △2七金
▲同 玉 △3八龍 ▲同 玉 △3七角成 ▲2九玉 △2八金
*(これで詰み)